段戸句会年間大賞
令和5年段戸句会年間大賞 平田冬か先生選
<大賞>   
海峡の街の夕暮れ河豚の宿 北川和子
単に海峡ではどこか不明ですが河豚とくれば門司下関の間の関門海峡をイメージいたします。河豚漁でも知られていますが、源平の古戦場の壇ノ浦があるところでもあり、海峡の町の夕暮れはいろいろな思いが籠ります。「河豚の宿」は河豚を食べさせる料亭とか店を差します。

<準大賞>   
江ノ電を待つ夕焼の海を前 太田眞澄 
湘南の海を前の江ノ電の駅もあります。湘南の海の夕焼はさぞきれいでしょう。それを眺めて江ノ電の来るのを待っている光景がありあり見えて来ます。

旅めける夕べの散歩鰯雲 深谷美智子
夕方のしかも鰯雲の景色はなにかしら郷愁があります。夕べの散歩を「旅めく」と捉えた作者の感性が素晴らしいです。郷愁は旅愁に通ずるところがあり季語の鰯雲が効果的です。

隣席と背中合はせの泥鰌鍋 小森葆子 
泥鰌鍋屋の昔ながらの店の様子が伝わります。たくさんの客に坐ってもらえるように詰め詰めの席になっているのでしょう。「背中合わせの」に臨場感が籠ります。


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令和4年段戸句会年間大賞 平田冬か先生選
<大賞>   
豊作を確信水を落としけり 中島彩
省略の効いた詠みぶりに感心しました。田んぼの水を落とす頃には今年の稲の出来も想像されると思います。水を落とす時の農夫の満足感が伝わって来ます。

<準大賞>   
一滴が一滴誘ひ滴れり 山崎圭子 
滴りをよく観察しています。先の一滴が落ちる時次の滴りを誘い絶え間なく滴りが続きます。よく観察しています。

芋二つ足して水車の良く回る 小森葆子 
里芋の皮を水流により剥く仕組みの芋水車です。軽過ぎても重過ぎても水車が上手く回りません。芋を二つほど足したら機嫌よく回り出したというのです。


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令和3年段戸句会年間大賞 平田冬か先生選
<大賞>   
大根引き首級の如く掲げたる 大田武
畑から引き抜いた大根を首級(打ち取った敵の首)に譬えたのがすごい。髻(たぶさ)掴みに葉の根元を持って得意げに大根を掲げたのだろう。

<準大賞>   
ライトアップ消え花冷えの俄かな 小森葆子 
時刻が限られていてライトが消されたのだろうか。ただでさえ夜の花見はまだ冷える。そんな中ライトアップが消えてしまったら俄かに花冷えを感じそうだ。

レシピなき鍋に白菜放り込む 野村親信 
奥様を亡くされた親信さんの作品なら解釈も違ってくる。慣れない台所での男料理を思った。決まりのない鍋料理、白菜さえあればあとは何を入れてもよい。独り鍋は侘しいが鍋物は温まる。


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令和2年段戸句会年間大賞 平田冬か先生選
<大賞>   
疫憂ふ今年も燕来たりけり 大田武
コロナ禍の重苦しい人の世ですが、季節の移り変わりは変わることなく今年も燕が来てくれました。燕に希望の光を感じます。

<準大賞>   
コロナ禍や余白の目立つ日記果つ 市川毅 
今年はコロナのために日記に書くべき日常が奪われた年でした。余白に切なさがこもっています。

身を浄め一気呵成の吉書かな 野村親信 
単なる書初めでなく儀礼を重んじる元来の吉書に取り組む姿が快いです。


惜しかったで賞
    一木の歓喜のさまに花吹雪く        本多悠天
    花見茣蓙テデイーベアも傍らに       小森葆子
    八十路にもときめきのあり更衣       杉原洋馬
    三日月のひかかりゐたる枯木かな     宮田望月
    寄生木(ほよ)の毬満艦飾の大枯木    山崎圭子


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令和1年段戸句会年間大賞 平田冬か先生選
<大賞>   
言ふべきか言はざるべきか蜜柑剥く 本多悠天
作者の心の迷いが蜜柑を剥く指先にまで現れているように思えます。蜜柑そのものを詠まず、こんな風に芝居の小道具のように登場させていて成功しています。

<準大賞>   
日焼けの子海のにほひをさせ帰る 小森葆子 
「海のにほひをさせ帰る」から、健康的な日焼けの子が具体的に想像され納得させられます。

春愁やいびつに減りぬ靴の底 深谷美智子 
これと言う理由もなくもやもやした目に見えない思いを、靴底がいびつに減ったと関りをもたせて詠んでいるところがおもしろいです。


次の句も好きでした。
  隈取の忠治見え切る村芝居               鈴木康允
  磯宮の錨錆びをり神の留守              宮崎勉
  日向ぼこ話し上手に聞き上手             野村親信

平成30年段戸句会年間大賞 平田冬か先生選
<大賞>   
春近し天地返しの土香る 鈴木康允
自然界の春到来を土の香りから感じています。畑仕事をしているからこその実感と思います。

<準大賞>   
ぎごちなく名刺交換新社員 深谷美智子
新社員がはじめて持った名刺です。取引先での初々しい社員の様子が「ぎごちなく」で伝わります。

息白く渚を駆くる当歳馬 宮崎勉 
海辺での調教を思いました。「息白く」で当歳馬の頼もしい未来を感じました。


次の句も好きでした。
  婦人服売り場明るく春近し              本多悠天
  湯豆腐は木綿が好みコップ酒            鈴の木正紘

平成29年段戸句会年間大賞 平田冬か先生選
<大賞>   
遠足の今日何度目の点呼かな 野村親信
引率の先生の一番の心配事がそれとなく伝わり「遠足」らしさが捉えてあります。

<準大賞>   
散髪を終へし襟足春の風  鈴木康允 
散髪後の男性の襟足が匂やかです。「春の風」の斡旋が良かったです。

蛍火や流人の墓は石ひとつ  宮崎勉 
流人の墓が石一つと具体的であり、「蛍火」の情趣がいっそう哀れさを誘います。

深谷美智子さんの「終電で帰る子待てる夜なべかな」、市川毅さんの「老妻はながら族なり毛糸編む」も捨てがたく思いました。

平成28年段戸句会年間大賞 平田冬か先生選
<大賞>   
荒神輿みんな写楽の顔となる 野村親信
相当に重量のある神輿を荒々しく揉みながら練り歩いている男衆です。肩にかかる重さに耐えている必死の形相が「写楽の顔」と直感したのです。厳密に写楽のどの絵と言われても困りますが、とにかく抜群に面白かったです。

<準大賞>   
炎天に踏み出す一歩深呼吸  宮崎 勉 
影一つない炎天下を歩くのは苦行です。どうしても行かねばならない用件があって炎天を行くときの覚悟の様なものが「深呼吸」 から伝わってきます。読む方も、深呼吸して一歩踏み出す気分にさせます。

自動ドア開くや落葉を招き入れ  大田 武 
常識にとらわれない物の見方が特に俳句を詠む上で大切です。自動ドアは、人の出入りのためのものという常識にとらわれないで、自動ドアが落葉を招き入れたと捉えたところがよかったです。

他に小森葆子さんの「木の芽どき木々のつぶやき聞こえさう」もよかったです。

平成27年、全投句455句の中から、平田冬か先生に選・句評をお願いいたしました。
<大賞>   
母の日にもてなす男料理かな 鈴の木正紘
「母の日」の句として新鮮でした。どのような料理を作って母上をもてなしたのでしょう。ぶっきらぼうな表現ながら母親に対する愛情が溢れています。

<準大賞>   
おでん煮て妻は3日の留守を告ぐ  小森葆子 
いつも留守勝ちの妻です。その度におでんを煮て出かけるのが常でした。おや、今日はやけにたくさん煮ているなと思っら3日も旅に出ると告げられました。この夫婦の普段の力関係というよりは夫のやさしさが想像されます。

おはようと日々指弾く金魚鉢  鈴木 寛  
飼っている金魚は家族同様です。元気かどうか気になるものです。毎朝金魚の鉢を覗きながら指で弾いて「おはよう!」と声をかけ元気でいること確かめるのです。