令和6年11月の入選句(兼題:「冬」、「手袋」、「鮟鱇・鮟鱇鍋」)

<特選> 3句
品書きの太き墨書は鮟鱇鍋
深谷美智子
<品書きは太き墨書や鮟鱇鍋>
皮から内臓まで全部食べるという野趣に富んだ漁師料理の鮟鱇鍋らしさが「太き墨書」に表現されていると思います。

鮟鱇のトロ箱占むる布袋腹 山崎圭子
<トロ箱を占め鮟鱇の布袋腹>
大きな鮟鱇の腹はたしかに布袋腹と言えそうです。トロ箱に溢れそうなくらいの大き
な鮟鱇を思います。

いつの間にこだはり溶けぬ冬日向
本多悠天
<いつの間にこだわり溶けぬ冬日向>
あることに拘り心まで寒さに悴んでいたのですが、冬の日向に暫くいたら、いつの間にか心がほぐれ、拘りがなくなっていたというのでしょう。

<その他の入選> 20句
冬星座東京湾の闇深く
本多悠天
<冬星座東京湾の闇照らす>
冬の星座が大きな東京湾を照らすというのは実感に乏しいように思います。湾の深い闇にまたたく冬の星座の方が印象的です。

鮟鱇のぬめぬめ包丁かはしけり
小森葆子
<包丁をかはす鮟鱇切り難し>
包丁をかわすのであれば切り難いのは言わずもがなです。どうして切り難いのでしょう。そこを詠み込んでみてはどうでしょう。

手袋のお洒落左右の色違へ
小森葆子
<左右の色違う手袋オシャレとか>
若い人は、個性的とかで、そういう手袋のお洒落の仕方をするかも知れないです。

街灯のほのかに照らす濡れ落葉 太田眞澄
<街灯はほのかに帰路の濡れ落葉>
「帰路」はとくに言わなくてもよいと思います。濡れた落ち葉が、ほのかな街の灯に照らされていることだけにしました。

攻め込むもノックオンとらる息白し
太田眞澄
<敵陣へ攻めてノックオン冬の空>
ノックオンはラグビーの反則の一つです。敵陣は言わずもがなと思います。勢い込んでの反則です。季語を変えて臨場感を持たせます。ちなみにラグビーは冬の季語です。

屋敷林高々とあり稲穂波 宮田望月
<屋敷林稲穂の海に堂々と>
北の季節風から屋敷を守るのが屋敷林です。稲田の広がる中の屋敷林が高々と頼もし気です。

片手袋垣根に挿されありにけり
宮田望月
<片手袋垣に刺されて主をまつ>
落ちている手袋を拾った人が、近くの垣根に挿しておいたのでしょう。主が捜しに来てくれるのを待っているとまで説明してしまわず、そこらへんは読者の想像に任せたいと思います。

青空を背(そびら)に凛と冬の富士
鈴木寛
冬の富士山の美しさは背景の青空が不可欠です。雪の白さが青空に一層映えて凛と美しいことでしょう。

静寂やひとりまどろむ冬屋敷 市川毅
熟睡できず、うとうととされています。冬座敷の静寂さに加え、寒さもあり寝付かれないのかも知れません。

もどかしく手袋外し切符買ふ
新井康夫
<チケット買う手袋外すもどかしさ>
硬貨で切符を買う時は手袋を外さないと上手くいきません。急いでいる時などは手袋を外すのがもどかしく思います。

保存樹の銀杏黄葉の神々し
新井康夫
<名刹の銀杏黄葉神々し>
銀杏の黄葉が神々しいく感じたのですから、相当大きい銀杏と思います。神木か保存樹かなと思います。

多彩なる防寒衣類冬もよし 杉原洋馬
<冬も良し防寒衣類の多彩ぶり>
冬は寒くて普通は「よし」と言いづらいのですが防寒服が多彩で楽しめるからよいと言っています。季重なりですが着眼の面白さを重視します。

手套つけ終はる十指を組みもして
山崎圭子
<ぎゅと十指組み合ひ手套着け終わる>
手套をはめるとき誰もこんな動作をしますね。ぎゅっとは省けそうです。

何やかや畑の物干す冬山家
山崎圭子
<畑の幸何やかや干す冬山家>
冬山家の様子が伝わります。自給の畑の収穫物を軒に干し吊るしているそんな山家が見えて来そうです。

吊るされていよよ鮟鱇寄り目かな
山崎圭子
<吊るされて鮟鱇いよよ寄り目なし>
そういえば深海にすんでいる鮟鱇の目は寄り目ですね。吊るされるとますます寄り目になるのも頷けそうです。

お揃ひの手袋祖母の手編みなり 鈴木六花
子供のころの事を思い出されています。おばあちゃんの手編みの手袋は愛情が籠っていてきっと暖かく大切にされていたのでしょう。

畳目の奥まで冬日射し入りぬ
深谷美智子
冬の日は斜めに差しますから、部屋の奥の方まで差し込みます。それを「畳目の奥まで」と言っているのでしょう。

冬ざるる四万十川の変はりなく 野村親信
<四万十の水面かがやき冬ざるる>
辺りの景色が冬ざれているにもかかわらず四万十川は変わらず豊かに流れているのではないのでしょうか。

駅伝の手袋脱ぎてスパートす
野村親信
手袋を脱ぎ捨て、ゴールに向け最後の勝負に出た駅伝走者を思います。

テアトルのありたる昔冬の路地
北川和子
<冬の路地すすめば過去のテアトルへ>
「過去のテアトル」とは、昔あった劇場とか映画館だと思います。この冬の路地の奥に昔テアトルがあったのだと思います。



以上
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