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令和5年9月の入選句(兼題:「鰯雲」、「新米」、「虫(全般)」)
<特選> 3句
<鰯雲夕べの散歩旅めける>
空に広がる鰯雲が旅愁の思いにつながります。鰯雲を見ての散歩が旅めけると捉えたところに惹かれます。
<遠州灘なだれ込むやに鰯雲>
上空一面の鰯雲が動いていて果ては、まるで遠州灘へとなだれ込んでいるかのようです。言い切ってしまってもよいでしょう。
<終バスのあかりは無言虫の闇>
終バスの明かりが無言では景が見えにくいです。終バスが虫の闇の中を去っていく光景にしました。
<その他の入選> 20句
<満目のうねる田圃や今年米>
「今年米」は、収獲がすんで食べるばかりになったお米をいいます。季語を「豊の秋」とし豊作をイメージさせます。
<新米や今日は許せよ三ばい目>
新米のおいしさにお代わりを重ねてしまいました。
<旅の宿夜は深まり蚯蚓鳴く>
一人旅の旅先の宿の夜更けに聞こえてくる「じーじー」という声。土の下の蚯蚓の鳴き声と言われています。淋しい気分の句です。
<妖艶な薫り一夜の月下美人>
「月下美人」は六音で字余りが気になりますので、別名の五音の「女王花」にします。芳香を放つ美しい花ですが朝にはしぼんでしまいます。
<「虫の声」唄ひ虫の名思い出す>
「あれ、松虫がないている・・」の童謡ですね。そういえば次々と虫の名前が出てきます。納得です。
<掬ふ掌にさらりと流る今年米>
新米に限る特徴とは思えませんが、「さらりと流れ」が少し気になりました。「さらさらこぼれ」にしてみます。
<飯の香やよくぞ瑞穂の国に生れ>
原句は季語がありません。上五を「新米や」にされてはどうでしょう。米好きの作者が見えて来そうです。
<街なかの無住の屋敷萩埋づむ>
「無住」はふつう寺院に住職がいないこと或いはその寺を指す言葉です。この句は町のなかの「空き家」を詠んでいると思います。
大きな酒蔵の裏はこの句のような闇に包まれています。そこに虫の声を聞いたのです。簡潔に「虫の闇」と言い切ったのがよかったです。
空に広がる鰯雲を見て、ふる里に思いを馳せています。「この空の下」に思いが籠っています。
<新米を研ぐ母からの一筆箋>
母が新米を研いでいるようにも受け取れます。要は、新米を研ぐときの注意が一筆書いてあったのでしょう。
朝ドラでも有名な植物学者の牧野富太郎の庭です。草木でいっぱいで虫も鳴いていることでしょう。ただし、これは夜の景色になります。昼間にも鳴いていたならば「ちちろ鳴く」を「昼の虫」にしたいです。
<今まさに行き合ひの空鰯雲>
「行合の空」は夏と秋が同居しているような空のことです。鰯雲が出ているけれど夏を思わせる雲も見られ地上ではまだ残暑の厳しいころです。
<陋屋も草庵めくや虫時雨>
「草庵」に粗末な家という意味がありますので陋屋は省けます。草庵のあたりは夜ともなれば虫がしきりに鳴くのでしょう。
<羊雲季節はモンゴル辺りから>
「季節はモンゴル・・・」が分かりにくいです。羊雲を見て羊が放牧されているモンゴルの草原を思い出したことにしました。
夜長の睡眠を楽しんでいるともそうでないとも取れる句です。夜長であるためによい夢を見ていたのに時々目覚め、現実に引きもどされるのでしょう。
遠くの富士山の稜線がいつになくはっきり見えたのです。さすが秋の立つ日だなと感動しています。
<彼岸花時を違えず咲きにけり>
彼岸の頃に咲くので「彼岸花」というのですが、今年もちゃんとその頃を間違えずに咲きだしたという感動です。
<御師の里邯鄲迎へくれにけり>
夜に鳴く虫ですから、迎えてくれたというよりは,御師の宿に泊まりその夜期待していた邯鄲を聞き止めた感動にしました。
鉦叩は結構はやいテンポで鳴きますが規則正しい鳴き方をメトロノームに譬えたのが面白いです。
以上
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