2019年9月の入選句
(兼題:「秋惜しむ」、「花野」、「地芝居」)

<特選> 3句
隈取の忠治見え切る村芝居
鈴木康允
派手に隈取をした国定忠治です。村芝居定番の見得を切りつつの台詞も聞こえてきそうです。

鵜供養の済みし長良川(ながら)に秋惜しむ
山崎圭子
五月中旬から始まった鵜飼も終わり、亡くなった鵜たちを供養する行事も終わった長良川にしみじみと行く秋を惜しんでいる作者です。

パラグライダー飛び行く那須の大花野
宮崎勉
那須高原の大きな花野の空を悠然と飛んでいるパラグライダーが見えます。さぞ心地よいことでしょう。

<その他の入選> 22句
三国志展を見終へて秋惜しむ
本多悠天
<三国志展終へし上野秋惜しむ>
三国志展を見終え、その余韻に浸りつつ秋を惜しんだという事にしてはどうでしょう。

地芝居の玄人はだしとやいはん
市川毅
<地芝居の玄人はだしなのに只>
素人の地芝居だけれど、玄人に負けないくらいの演技に感動しています。只で見られるということは言わない方が深みがでます。

その先に瀬音聞こゆる花野かな
深谷美智子
<その先に川音聞えくる花野>
先の方にせせらぎの音が聞こえてくる花野のよろしさが想像されます。「聞こえる」の文語は「聞こゆ」ですので中7をすこし変えました。

草分けて道なき道を花野行く
深谷美智子
<草分けて道を探せる花野かな>
草を分けて道を探すのでなく、花野を楽しんでいる様子にされてはどうでしょう。

子供歌舞伎祖父のおひねり飛びにけり
宮田望月
<子供歌舞伎温しおひねり祖父のもの>
微笑ましい光景です。孫の晴れの舞台に祖父がおひねりをとばして盛り上げているのです。上5の字余りは許されましょう。

地芝居のまたも台詞に詰まりけり
小森葆子
<地芝居や台詞忘れて客教え>
「客教え」まで言うのは面白がり過ぎのように思います。一歩手前で言い止める方が却って余意余情が籠ると思います。

入口も出口もあらぬ花野かな
小森葆子
人工的なものではないので当たり前かもしれませんが、改めて言われると確かにと納得してしまいます。

大粒の葡萄値を見て戻しけり
新井康夫
巨峰やマスカットの他この頃は随分値段の高い葡萄が店頭を飾っています。一房の値があまりにも高すぎて手が出ないのもあります。

大花野雲を友とす一人旅
北川和子
<一人旅雲を友とし大花野>
語順を入れ替えますと、「雲を友とす」という大花野の中の作者の思いが見えてきます。

見得を切る子供歌舞伎の役者かな
北川和子
<地芝居に見得切る子供歌舞伎かな>
「地芝居」も「子供歌舞伎」も同列の語彙ですのでどちらかを省きたいです。「地芝居」を省けば添削句になります。「子供歌舞伎」を省くならば「地芝居に見得切る子供役者かな」になります。

地芝居の子役見守る母の顔
鈴木六花
舞台の袖などで我が子の演技をはらはらしながら見守っている母親の顔です。

秋惜しむ音楽堂にチェロを聴き
鈴木六花
<秋惜しむチェロの音響く音楽堂>
音楽堂でチェロの演奏を聴きつつ秋を惜しむ気持ちになったのだと思います。

前垂れの褪せゐる地蔵花野道
鈴木康允
<前垂れの褪せて野地蔵夕花野>
花野の地蔵ですから「野地蔵」と言わなくてもわかります。花野の中の道のべに立っていらっしゃる野仏の前垂れが色褪せているという発見です。

山囲む底の花野を漕ぎ行けり
大田武
道のない花野の中を草を掻き分け掻き分け進んでいる作者です。「藪漕ぎ」でなく花野ですから草花を楽しみながらの行程が思われます。

科白出ず客の掛け声村芝居
鈴木寛
<科白より客の掛け声村芝居>
「科白より客の掛け声」が少しわかりにくいです。役者の科白が出なく、客席から冷やかしの声が掛けられている場面にしました。

新涼や背すじ伸ばして朝散歩
中島彩
<新涼や背すじの伸びて朝散歩>
猛暑の時期を過ぎ、少し涼しさを感じる新涼の頃は背筋を伸ばし気持ちよく朝の散歩ができそうです。

夢うつつ声明めける虫時雨
中島彩
<夢うつつ声明のごと虫時雨>
声明を唱えるように虫時雨が夢うつつの中に聞こえてくるというのです。睡眠を邪魔する声でなくむしろ安眠を誘っているのかも知れません。

夕顔の底光りする白さかな
杉原洋馬
<夕顔の底光りする白き肌>
「底光りする白さ」とはどんな白さでしょう。深みのある白を思いました。「白き肌」は「白さかな」として余韻を深めます。

単線の一両電車大花野
山崎圭子
おもちゃのような一両の電車が花野の中を走っている光景です。動詞がありませんが情景はきちんと見えてきます。

朝靄の中を鋭き鵙の声
宮崎勉
<朝靄の中を鋭き鵙高音>
朝靄の中、姿は見えないけれどあの鋭い声は鵙に違いありません。「鋭き」とありますので「高音」は省けそうです。

村芝居馬の後脚助役とか
野村親信
<馬の脚助役よろける村芝居>
村芝居の馬の後脚に扮しているのは聞くところによると役場の助役らしいとしました。よろけたことまで盛り込まない方がいいように思います。

地芝居の海女のお岩の逞しき
野村親信
四谷怪談のお岩さんが日焼けをした頑丈な体躯の海女が演じているのも地芝居らしいですね。


以上


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