令和7年3月の入選句(兼題:「水温む」、「草の芽」)

<特選> 3句
まだちょきの形ばかりや菖蒲の芽
山崎圭子
<まだちょきの形の切っ先菖の芽>
菖蒲の芽立ちはこの句の通りちょきの形で出てきます。剣葉になるまでは暫くちょきちょきの形の状態が続きます。

小さき芽に大きな名札植物園 本多悠天
<植物園大き名札の名草の芽>
大と小の対比をはっきりさせるほうがよいと思います。場所柄は最後に据えて植物園ならばと納得させます。

新しき杖の届きぬ水温
鈴木六花
<新しき杖届きたり水温む>
お気に入りの杖を注文してあったのでしょう。それが手元に届いたというのです。水温むころの外出を楽しみにしていたことが分かります。季語の「水温む」と近すぎなのがよいです。

<その他の入選> 16句
水温む翡翠色なる禊川
山崎圭子
<翡翠色なし禊川水>
禊に使う川らしく翡翠色に棲んでいるのでしょう。そんな川の水も温む頃になった喜びです。

草の芽にささやくごとき瀬音かな
太田眞澄
<草の芽をやんわり触るる瀬音かな>
「やんわり触るる」を「ささやくごとき」に言い換えますと伝わりやすくなります。

木道を来る子供らや水温む
太田眞澄
<木道を子等の走るや水温む>
水辺か湿地園に掛けられている木道と思います。水が温んで春めいてきて走りたくなるのはわかりますが危ないですので、「来る」にしました。

一葉のたつきの井戸の水温む 本多悠天
<一葉のゆかりの井戸や水温む>
「ゆかり」では汲んだことがある程度になります。実際に生活に使っていた井戸とわかる方がよいです。

泥けむりあぐる鯉どち水温む
本多悠天
<水温む泥けむりあぐ鯉の群>
冬の間底に沈んでいた鯉たちも水が温むと、底泥を乱し動き出します。水が温んだからという理由は後にした方がいいです。

草の芽に散歩の足の軽やか 杉原洋
<草の芽に早朝散歩足軽し>
足元の草も芽吹くころです。散歩の足も軽やかになります。特に早朝に限らないのではと思います。

水温む鳥の水盤賑やかに
杉原洋
<水温み小鳥の水盤賑やかに>
中八の字余りが気になります。「鳥の水盤」でよいと思います。上五は「水温む」とし一旦切ります。余韻の間をもうけます。

池底に揺らぐ日の斑や水温む
鈴木寛
池の底まで日差しが届いて日の斑が揺らいでいることから、水が温んでいる様子が伝わります。

孫の夢ペットショップや水温む 鈴木六花
ペットショップを開きたいというお孫さんの夢を応援したく思っています。季語の「水温む」からそれとなく伝わります。

空耳か亀鳴くといふ季語あれど
市川毅
<空耳か亀鳴くと言う幻想か>
声を出す器官をもっていな亀が鳴くはずがないのですが、昔から亀鳴くという季語があります。空耳にしても亀が鳴いたみたいに思えたのが楽しいです。

草の芽や彼の言葉を許す気に
北川和子
<草の芽や彼の言葉を許さうか>
どんな言葉に心がざわついていたかわかりませんが、元気よく芽吹いてきている草を見て、前向きな気持ちになったのでしょう。

水切の小石よく跳び水温む 深谷美智子
<水切りの川面打つ音水温む>
水切の石の音を詠むより、遠くまで弾んで跳んでいく石の様子が見えるようにしたいです。「水温む」から石の弾む様子が伝わりそうです。

水温む今なほ橋は工事中
深谷美智子
橋の掛け替え工事は長くかかりますので、水温む春になっても工事が続いているのもわかります。

水温む鯉の大口集まり来
小森葆子
冬の間池底にじっとしていた鯉は水が温むしたがって動きも活発になります。餌をくれる人影に大きな口をあけて集まって来ているのです。

芽起しの雨にけむれる雑木林
小森葆子
<芽起しの雨に匂へる雑木林>
芽吹きを促すような春先の雨が雑木林に降っています。臭覚よりも「けむれる」と視覚でとらえた方が共感されそうです。

もの芽出づ手着かぬままの造成地 小森葆子
<造成地手着かぬままにもの芽出づ>
造成地の予定が頓挫したのか、売れ残っているのかわかりませんが、手着かぬままの土地には、いろいろな草の芽がこぞって出ていることでしょう。


以上
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