2018年5月の入選句
(兼題:「薄暑」「夏料理」「蝉・空蝉」)

<特選> 3句
五月晴クレーンすつくとビルの上
大田武
<五月晴クレーンすっくと楼の上>
建築中の高い建物の上に、さらに立て増すためにクレーンが働いています。五月晴れの中にすっくと立っているクレーンの頼もしさが伝わります。

空蝉の足しつかりと岩捉へ
本多悠天
<空蝉の足しかと岩捉えをり>
よじのぼった岩に確りと縋りつき羽化を果たした蝉の幼虫の脱け殻です。空蝉になってもなほ爪を立てて岩をつかんでいるのがなんだか哀れです。

せせらぎの音も肴や夏料理
深谷美智子
<せせらぎも肴に加へ夏料理>
瀬音の聞こえるような店の料理、あるいは貴船などの川床料理をいただいているのでしょう。お料理も涼しそうですが、せせらぎの音もおもてなしの馳走の一つなのです。「加えて」が説明的になりますので省きます。

<その他の入選> 22句
独り居の昼餉はいつも冷奴
山田敏
<休日の昼餉はいつも冷奴>
誰にでもできる簡単な献立の一品。時間のある休日の昼餉でなく、独りの昼餉の方が共感されそうです。

魂ともに抜けしうつせみ清々し
宮田望月
<身も魂も抜けてうつせみ清々し>
蝉が羽化する折は、足の先、髭の先まで余すところなく全部抜けます。魂までも共に抜けてしまったあとは空ろの殻が残るのみですが、その蝉の殻を清々しと感じたのです。

仕上げにとハーブを添ふる夏料理
小森葆子
<仕上げにとハーブ一握夏料理>
食欲をそそるような香のハーブを最後に添えて、見た目にも涼やかで美味しそうに盛り付けをした夏料理です。

背を割って今し生まるる蝉白し
小森葆子
蝉の幼虫の背中が割れて羽化するところです。真っ白な蝉が生まれて来るのは神秘的です。やがてすこしずつ本来の蝉の色にかわります。

空蝉の生身の跡を残さざる
市川毅
<空蝉や生身の跡は見付からず>
先に述べたように、生身の体は髭の先までそっくり抜けてしまいますので生身の跡はどこにもないわけです。

畑仕事朝日のすでに薄暑光
鈴木康允
<畑へ差す朝日のすでに薄暑光>
薄暑光を感じたのは畑に出て作業をしているからこそ感じたのだと思います。「差す」という動詞は省けます。

軽暖や上着を肩に京の路地
鈴木康允
<軽暖や上着を肩に路地小路>
軽暖も薄暑と同じ季語です。薄暑の候、脱いだ上着を肩にかけて路地を歩いているのですが、場所柄がわかった方が共感されると思います。京都の路地にしました。

浅間嶺に雲湧き出づる薄暑かな
宮崎勉
本格的に夏になる前の浅間嶺の様子です。湧き出づる白雲が景として見えて来そうです。

袖口をたくし上げもす薄暑かな
鈴の木正紘
<袖口の肘まで上がる薄暑かな>
長袖が少々暑く感じられ、その袖口を肘辺りまでたくし上げているのでしょう。まだ半袖を着るほどでない「薄暑」らしさが捉えてあります。

歯応への採り立て野菜夏料理
鈴の木正紘
自家栽培の野菜でしょうか。歯ごたえのよい新鮮な野菜を用いた夏料理がいろいろ想像されそうです。

格子窓連なる小路古都薄暑
深谷美智子
京都の祇園辺りの小路を思いました。格子窓から、芸妓の名を掲げた置屋さんや髪結さんなどなど並んだ狭い小路の薄暑が思われます。

木漏れ日に空蝉の身の透き通る
深谷美智子
<木洩れ日を受けて空蝉透き通る>
木漏れ日が当たった空蝉です。飴色の半透明の空蝉が木漏れ日に透けるように見えたのです。「受けて」は省ける動詞です。

スマホ手にランチ待つ列街薄暑
鈴木寛
<スマホ手に列ぶランチの街薄暑>
リーズナブルで旨ければランチタイムには店の前に行列ができるのでしょう。スマホ手に常に情報交換している若者のみならず、現代の街の風景も見えて来そうです。

吾庭の胡瓜も添ふる朝げかな
新井康夫
<吾庭の胡瓜も添えて朝げかな>
庭に数株のトマトや胡瓜を育てているのでしょう。今朝は庭で育った胡瓜が食卓にのっています。とびきり新鮮で美味しいことでしょう。

笹の葉をあしらふ切子夏料理
山崎圭子
<江戸切子笹の葉を添へ夏料理>
見るからに涼しげな切子です。江戸切子とあるからには深く鮮明な切込みが特徴ですので、余分なものは添えない方がいよいかも知れません。添えられた笹の葉を生かすために単なる切子にしました。

菩提樹に縋りてをりぬ蝉の殻
山崎圭子
蝉の殻の縋る木が釈尊が悟りを開いたという菩提樹です。仏にえにしのある木なら無事に蝉が生まれたことでしょう。

碁盤割ありし斎野燕飛ぶ
山崎圭子
<碁盤割遺る斎野燕飛ぶ>
今も碁盤の目の様に縦横に整然とした区画が遺っている斎野が実際にあるかどうか疑問です。そこで「碁盤割ありし」としました。広々とした旧跡に燕がのびのびと飛んでいる景にしました。

箸置きも硝子に変へぬ夏料理
鈴木六花
<箸置きも装い変えて夏料理>
「装い変えて」は物事の説明です。どのような箸置きに変えたかが見えてくるようにしたいです。夏料理ですから箸置きも涼やかなガラスに変えたかも知れません。

一輪挿しドクダミの花楚々とあり
杉原洋馬
<ドクダミも一輪挿しにすまし顔>
「すまし顔」と思われたのはどうしてでしょう。白いつつましやかなドクダミの花です。「楚々とあり」にしては如何でしょう。

山並に窓開け放つ夏料理
野村親信
<山脈に窓開け放ち夏料理>
「やまなみ」と読んでもらうためには「山並」にしたほうがよいです。夏料理をいただいているお座敷の臨場感をだすために「開け放つ」にしました。

一山のみんみん和讃さながらに
野村親信
<みんみんの和讃の山となりにけり>
単なる山でなく、一つの大寺をあらわす「一山」(いっさん)」にしました。そこで盛んに鳴いているミンミン蝉の声がまるで和讃のようだとしました。

脱け殻に縋りて蝉の朝を待つ
大田武
<空蝉に縋り朝待つ柔き羽>
蝉が羽化した後しばらくは自分の脱け殻にしがみつき飛び立つ朝を待ちます。「柔き羽」が他の生き物でなく、生まれてきた蝉とわかるようにしました。


以上

戸句会のトップページへもどる