2018年7月の入選句
(兼題:「晩夏・夏の果て」、「団扇」、「苺」)

<特選> 3句
海士の四肢黒光りせる晩夏かな
宮崎勉
海士は海に入って貝や海草などを取る人ですが、夏の終わりの頃には四肢が黒光りするほどに逞しく日焼けしているのは頷けます。

夏の果傷はやうやくかさぶたに
野村親信
夏も果てる頃ともなれば、少年の膝小僧の傷口もやっとかさぶたができ癒えてきました。活発な少年の夏の終わりを傷のかさぶたで詠んでいるところが興味深いです。

少年の声変りして夏終る
山崎圭子
少年期から青年期に移る時に声帯に変化が起こり声域が変わります。特に夏の期間は身体の成熟が顕著なのかも知れません。

<その他の入選> 19句
寝付くまで母は団扇であふぎくれ
宮田望月
子供の頃寝落ちるまで団扇風を送ってくれた母の姿を思い出しての作品です。昭和時代の母の愛を感じます。

夏果てて無人駅舎に戻りけり
本多悠天
<夏果てて無人駅に戻りけり>
夏が果てると何故無人駅に戻るかが少々不明です。たぶん、海か山への最寄りの駅なのでしょう。中七が字足らずですので「無人駅舎に」にしました。

胸元をつまみ上げもし団扇風
山崎圭子
<胸元をそっとつまみて団扇風>
団扇を使いつつ、胸元に風を入れようと洋服の胸元をつまみ上げたのでしょう。「そっと」まで説明しなくてもよさそうです。

龍神を祀る磯山花海桐
宮崎勉
<磯山の龍神祀り花海桐>
龍神さんを祀る祠があるそんな磯山です。辺りには海桐の花が咲き匂っているのです。

白檀の香りかすかに古扇
小森葆子
<白檀の香かすかに残る古扇>
白檀の香りがかすかに残る古い扇です。五・七・五のリズムに収まらず調べが良くありません。そこで「残る」を省きました。

夏草や休めしままの登窯
鈴の木正紘
<夏草や煙を吐かぬ登窯>
登窯は山麓の傾斜に沿って築かれた陶磁器を焼く窯ですが、なぜ「煙を吐かぬ」かが分かりません。夏草の茂るままでしばらくは火入れをしていない窯なのかも知れません。

炎天下己が影踏み独りゆく
市川毅
<炎昼や影を踏みつつ唯ひとり>
炎昼は燃える様に熱い真夏の午後をさします。「影を踏み」から外を歩いていると思われます。それなら季語を「炎天下」にしたほうが臨場感があります。

白磁には蔕のみ残る苺かな
大田武
<白磁には蔕のみ残す苺かな>
「残す」と「残る」と一字を変えただけです。「残す」ですと、蔕のみを残して苺を食べますという動作の報告になりますが、「残る」としますと白磁に残っている緑の蔕が読者にありありと見えて来ます。白磁の皿の上の緑の蔕から食べる前の赤い苺まで見えて来そうです。

虹仰ぐこの吉兆を分かちたし
中島彩
<朝の虹この吉兆を分かちたし>
「朝の虹」は大雨の前兆とも言われていますので「虹仰ぐ」にしました。美しい虹に出合えた幸運を自分が独り占めするのでなく、みんなにも分けてあげたいと言うのです。

急かすかに団扇縁台将棋かな
鈴木寛
<急かすかに縁台将棋の団扇かな>
縁台は夏の納涼のためのものです。縁台将棋だけで季語になり団扇は季重なりになりますがこの場面には付き物ですので気にならないでしょう。相手の一手を待つ人物像まで想像されそうです。

朝夕の水遣り空し大旱(ひでり) 杉原洋馬
<朝夕の水遣り空し枯るる庭>
朝夕に水を遣っているけれど追いつかなく庭に育てている草花が枯れてしまったのは雨が降らない大旱だからだと思います。「空し」から庭の植物が枯れてしまっていることが伝わります。

寝つきたる手より落ちたる団扇かな
新井康夫
<寝返りてするりと落ちし団扇かな>
団扇を煽ぎながらベットに横になっていた人の手より団扇が落ちたことにしました。寝付いた手より自然に団扇が落ちたのです。

単線の鉄路揺らぐや晩夏光
鈴木康允
頻繁には通ることのない地方の鉄路です。晩夏といえど厳しい暑さの中の大気に鉄路が揺らぐように見えたのでしょう。

七輪の煙追ひやる渋団扇
鈴木康允
<七輪の煙追いやる渋団扇>
秋刀魚を焼く場面を思いました。炭火を熾すための団扇とも思いますが、時にはもうもうと上がる煙を追いやるためにも使いましょう。渋団扇は表面に柿渋を引いたもので丈夫です。店先で焼き魚を売っているような魚屋の渋団扇かも知れません。

団扇風読経を上ぐる僧の背へ
鈴木康允
<読経上ぐ背なをやさしき団扇風>
自宅の仏壇に参ってくれている僧の背を団扇で煽いでいる場面です。「やさしく」は言わずもがなと思います。

往診の医師に送れる団扇風
深谷美智子
僧が往診の医者に変わりましたが上の句と発想は同じです。ありがとうの心が団扇の風に込められています。

忙しなく扇子つかひて商談す
深谷美智子
<忙しなく団扇つかひて商談す>
今どき団扇を忙しなくばたばたと商談をまとめると言うのは考えられません。扇子に替えたほうがあり得そうな場面になります。お芝居の一場面にありげな情景です。

人気なき午後の校庭夏深し
深谷美智子
夏休み最中の校庭です。午前中は部活の生徒の影が見えていた校庭ですが午後からは閑散としていることでしょう。

役者絵の団扇長き柄しならせて
野村親信
写楽の役者絵を思いました。柄の長い団扇をしならせて煽いでいる情景が見えてきそうです。


以上

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