Chap.1 平田冬かが教える俳句の作り方

 主都圏段戸会の段戸サークルに『句会』を立ち上げる旨伺いました。
岡崎高校の卒業生として選句のほうでご協力させていただくことになり喜んでおります。俳句って楽しいと思っていただければうれしいです。俳句のはの字も知らない方大歓迎です。相撲にも土俵やルールがあるように俳句にも伝統文芸として型というか約束があります。簡単に書いてみます。

§1. 俳句の基本的な作り方
有季定型という二大約束。
・季節の言葉(季語)を詠みこむ。
・五七五のリズムで詠む。(十七音で詠む)
そのほか、
・一句に詠み込む季語は原則として一つ
・一句に切字(や、かな、けり)も重複させない
・ 旧仮名遣いで詠む(この方が日本語の調べがよい)
 何を句に詠むか迷う場合はまず先に季語になるものを見つけます。それに話しかけてみてください。愛情をもって観察しておりますと、今まで気づかないでいたこと、たとえそれが小さな驚きでも面白さでもいいです、その小さな発見が感動に繋がるものです。そこを十七音にしてみてください。こんなふうにして句を作りますと自然と仲良くなり自然の小さな秘密を知ることもできうれしくなります。通勤途中でも散歩途中でも季語探しをしておりますと退屈知らずです。

§2. 歳時記を手元に
 
俳句に親しんでいただくためには歳時記を手元に置いていただくことをお勧めします。色々出版されていますが、ハンディーなものとしては文庫版も出ていますので、持ち歩く際にも便利でしょう。

§3. 焦点を絞りましょう
 俳句は十七音の短い詩です。多くのことを詰め込みますと作者がなにを言いたいのか伝わりづらくなります。季語以外の素材は一つくらいに絞ったほうが焦点のはっきりした作品になります。作品としての俳句は、まず読者にわかってもらうことが大切です。独りよがりにならない様にということも申し上げたく思います。

§4. 季重なりは出来るだけ避けましょう
 
投稿作品の中で、季語の不明なものがありました。ミント、同窓会は季語ではありません。また、季語重なりもかなり目立ちました。

扇子(夏)と汗(夏)、日傘(夏)と汗しずく(夏)、葛の海(夏)と萱草(夏)とヨット(夏)、梅雨晴れ間(夏)と菖蒲園(夏)、山百合(夏)と緑(夏)土用うなぎ(夏)と暑さ(夏)、立葵(夏)と夏来る(夏)

季重なりは絶対ダメということではないのですが、どちらの季語に感動しているかがわからないような詠み方になりがちですので、できるだけ避けたほうがよいと思います。

§5. 最適な季語を選びましょう
季語の動く(他の季語で置き換えられる)俳句は、俳句としては完成していません。例えば、
原句:紫陽花に母の面影一周忌
は、句としてのかたちや調べも整っています。ただ、「紫陽花」が季語として動く点が弱いかなと思います。例えば「山吹に」でも通りそうということです。

§6. 選者の選句の基準
 作者なりの発見や捉え方をしている作品、作者が何に感動しているか分る作品を採ります。反対に、単なる報告程度や説明に過ぎない作品、独りよがりで作者が何に感動しているか不明の作品は採れません。
投稿句の中には中七の字余りが目立つものがあります。何度も指を折り読み返してみてください。

§7. 実感のこもった俳句をつくりましょう
俳句は季語と向き合い、何か驚きやおもしろいなと思うこと、不思議だなと思うことを捉えて十七音にしますと、実感がこもり共感されやすくなります。
今回(2010年1月)は、歳時記に書かれてある季語の常識をもとに頭の中で作り上げたような作品が多かったように思います。
たとえば、「日向ぼこ」の句をつくる場合でも、自分が日向ぼこをしてみることで何か小さな発見があります。想像だけではなかなか共感を得るような句は難しいですね。


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Chap.2 平田冬かの添削に学ぶ

原 句: 山門の内なる学舎みどり摘む
添削句: 山門の内なる学舎みどり立つ
山門の内とありますので仏教系の学校なのでしょう。「みどり摘む」の「みどりは」松の新芽(春)のことです。未来ある若人の集う学舎ですので、摘む前の勢いのよい情景とするため「みどり立つ」にしました。

原 句: 乙女の手機械の如く新茶摘む
添削句: 乙女の手機械の如く茶を摘める
手早く茶の葉を摘む乙女の手の動きを、まるで機械のようだと驚いていることがわかります。ただ、「新茶」は製品になったものをいい夏の季語。「茶摘」は春の季語です。

原 句: 紅白とバラの戦に思い入り
添削句: 紅白の薔薇に薔薇戦争のこと
イギリスの薔薇戦争のことを思っていることがわかるように。

原 句: 母の日やアロマオイルの蓋開くる
添削句: 母の日のアロマオイルのプレゼント
アロマオイルは娘さんからのプレゼントでしょうか。

原 句: 沼奥に低き鳴き声ひき蛙
添削句: 沼の奥低く響くはひき蛙
単なる説明に終わらせず驚きや臨場感を出します。

原 句: 土香る幼き茎にも茄子の色
添削句: 茄子苗の茎よく見れば茄子の色
感動のポイントを一つに絞ります。土が香ったことは別の感動になります。自分なりの発見を捉えていて好ましいです。添削句の季語は「茄子苗」春です。

原 句: 見はるかす田のおちこちに鯉幟
添削句: 見はるかす田の彼方にも鯉幟
あんなところにも鯉幟が上がっているという驚きを出します。

原 句: 大家族日に三升の麦茶かな
添削句: 我が家族日に三升の麦茶かな
3升は5.4リットル、毎朝、大薬缶でこれだけの麦茶を家族のために用意するのでしょう。大家族と言はずにそこらへんのところは読者の想像に任せます。

原 句: 万緑の三丸より本丸へ
添削句: 三の丸本丸跡も万緑裡(り)
緑豊かな城跡の様子です。「三丸より本丸へ」が曖昧です。三の丸跡も本丸の跡も緑で包まれ、万緑の中ですと「万緑裡」で情景をはっきりさせました。

原 句: 脇道に市の朝顔控え置く
添削句: 脇道も朝顔市の控へ置く
入谷の朝顔市は露天の棚にも地べたにも所狭しと朝顔の鉢が置かれています。脇の路地にもストックの鉢が置かれているのでしょう。脇道の朝顔の鉢に目をつけたのが手柄です。

原 句: 水遣りやしぶきに虹の赤子かな
添削句: 水撒きのしぶきに小さき虹生まる
雨上がりに空に出る虹は季語(夏)ですが、この句の場合は「水撒き」が主季語(夏)としてはっきりしていますので季重なりは気になりません。ただし、「水遣りや」で切りながら下五も「赤子かな」と切れ字を重複させるのは、感動のポイントが二つに分裂しますので避けましょう。「水遣り」を「水撒き」にしたのは夏の季語としてはっきりさせるためと、虹が生まれるようなしぶきを上げる勢いのある水を言いたかったからです。

原 句: 黄ばみてもなお梔子(くちなし)の香を放ち
添削句: 黄ばみゐてなほ梔子の匂ひけり
原句のままでも分りますが少々理屈っぽい点が気になります。すでに黄ばんでしまっている梔子をかいでみたら、思いのほかよい匂いが残っていたことに驚いています。その驚きを素直に表現したのが添削句です。

原 句: 牛蛙ツェー音(c音)低く響かせて
添削句: ツェー音(c音)の低く響くは牛蛙
始めから牛蛙と分っていたのではなく、先ず耳にツェー音(ドの音)の低い響きを捉え、それが牛蛙らしいと知った驚きにします。ちなみに、蛙は春の季語。牛蛙もそれに準じますが、雨蛙,青蛙は夏の季語です。

原 句: くま蝉の空気を割りて鳴き出すや
添削句: くま蝉の大気裂くかに鳴き出せり
「空気を割りて」が中だるみしています。もっと切り口を鋭く表現したいです。

原 句: 雷雲に上目使いの散歩犬
添削句: 遠雷に上目遣ひの散歩犬
犬の不安そうな様子が上目遣いでわかります。しかし、雷雲を見て雷と分るかどうか疑問です。遠雷としますと、犬の耳に雷が聞こえている状況になり上目遣いも納得できます。

原 句: 横歩きしつつ朝顔市ぬけし
添削句: 鉢かばひ朝顔市を横歩き
朝顔市らしさを捉えて詠みたいと思います。買った鉢を庇いながらですと、横歩きが生きてくると思います。

原 句: さびた散る険しき道に声もなく
添削句: 道いよよ険とはなりぬ花さびた
「糊うつぎ」のことを北海道では「さびた」と呼びます。額紫陽花のような白花をつけます。さびたの花と辺りの様子のみに焦点を絞り「声もなく」は省きます。

原 句: 向日葵をいざ描かんと白き布
添削句: 画布真白いざ向日葵を描かなん
下五の「白い布」が句の勢いをそいでいます。真夏の太陽のような強烈なイメージの向日葵を描く作者の意気込みが伝わるようにします。

原 句: 涼風が渡る奥飛騨露天風呂
添削句: 涼風の頬を撫でゆく露天風呂
露天風呂は奥飛騨ばかりではありませんので一般化して詠み、涼風の心地よさが伝わるようにしたいです。

原 句: タンカーの行く手を塞ぐ夕虹かな
添削句: タンカーの行く手にかかる虹の橋
虹を見ますと何か幸せを感じませんか。その虹が「行く手を塞ぐ」というマイナスのイメージに捉えるのは共感できません。また、夕虹と限ることもないと思います。こうしますとタンカーの幸先のよい航海が約束されているようです。

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Chap.3 平田冬かが明かす「なぜこの句が採れなかったのか」

 作者なりの発見や捉え方をしている作品、作者が何に感動しているか分る作品を採ります。反対に、単なる報告程度や説明に過ぎない作品、独りよがりで作者が何に感動しているか不明の作品は採れません。これからの参考にしていただきたく採れなかった句にコメントつけました。
 また、中七の字余りが目立ちます。何度も指を折り読み返してみてください。

寝転べば天井かける鳥の影
無季のため何処に寝転んでいるか場所柄もよくわかりません。

おみくじをしっかり結へ初詣
これだけですと平凡で初詣らしさがありません。
初詣を季語にするよりも「初みくじ」を季語にして、どんなみくじを引き当てたのかなどその折の心が分るように詠むとよいです。

路地端の枯れ盆栽に実がひとつ
盆栽にもちゃんと実がついている、という驚きに絞って詠んでみてはどうでしょう。そういう場合は、路地端という場所よりもどんな木の盆栽か分った方がよいですね。

ありあけの月うすらひのとけゆきし
「うすらひ」は薄氷のことで春になって、薄く張る氷。冬に張る薄い氷ではありません。夜明けの一番温度の下がるときに溶けるのも納得できません。薄氷が有明の月の様だということでしょうか。月との関わりが今ひとつ不明です。

ひよどりの花に潜りて尾羽根のみ
ひよどりが尾羽根のみ残こして潜る花がどんな花か想像できません。

冬帽子ためつすがめつバスの窓
バスの窓から冬帽子の人がためつすがめつ何をみているのでしょう。冬帽子の人でなくてはならないことも分りません。

冬の陽に腹向け蜘蛛は動かざる
普通俳句では、蜘蛛は夏の季語です。今年は暖冬だったせいもあり、うかうか出て来たのでしょう。この蜘蛛は死んでいるのですか。それとも自分で張った網に居るのですか。情景としても分りにくいです。蜘蛛と「冬の陽」と一緒に詠むのは難しいです。避けたほうがよいでしょう。

幼子の口まげ笑ふ福笑ひ
「口まげ笑ふ」があいまいです。幼子が口を曲げて笑っていることなのか「福笑ひ」の口のパーツを曲げて置いてしまったことを笑っていることなのか不明です。

妻立ちて七草粥にポン酢かな
「七草粥にポン酢かな」がよくわかりません。七草粥にポン酢をかけて食べるのでしょうか。それとも、七草粥とポン酢を妻が持ちに立ったということでしょうか。

生い育つ幼子笑みて賀状かな
どういう年賀状でしょうか。写真の幼子が笑って居るのかも知れませんが,「生い育つ」は蛇足でしょう。

この花を三色菫と呼びし頃
今は、パンジーと呼ぶのが普通。昔はこんな風に呼びましたね。単なる事実だけで三色菫と呼んだ頃がどうなのか伝わらないのが惜しいです。

弧を張りしベイブリッジに冬鴎 
句としては出来ています。冬鴎はベイブリッジに止まっているのですか。舞っているのですか。季語が描けていないのが惜しいです。

痛み 雪 ともに流さむ 露天風呂
露天湯に雪を流すというのがわかりません。

鳥小鳥 蜜柑の半割り シェアする
「シェアする」が情景として見えてくるように具体的に表現するとよいですね。

洋館の灯り眩(まばゆ)しクリスマス
なぜ眩いか分るように詠みたいです。電飾されていたのでしょうか。

ぐえぐえと栗鼠鳴く林 冬ざるる
栗鼠の鳴き声のする林がなぜ冬ざれているのか不明です。実のところ栗鼠の鳴き声知りませんので分らないのかもしれませんが。

幼き子 着慣れぬ晴れ着の 初詣
七五三風景でも当てはまりそうですね。

のろのろと帯まで重し初稽古
何の初稽古でしょうか。

侘助や開けし障子に色を添え
庭の侘助ですか、活けてある侘助でしょうか。障子に色を添えると言うことが情景として見えてきません。

チョキチョキと母の冬シャツ切りてをり
冬シャツであること、またそれが母のものであるという思い入れは作者にしか分らないように思います。

冬雲や戦闘機ばかり南下せり
中七が字余りです。南下して戦場に向かう戦闘機を詠んでいますが場所柄がわからず何を伝えたいのかがわかりにくいです。

作者なりの発見や捉え方をしている作品、作者が何に感動しているか分る作品を採ります。反対に、単なる報告程度や説明に過ぎない作品、独りよがりで作者が何に感動しているか不明の作品は採れません。これからの参考にしていただきたくすべての句にコメントつけました。
また、中七の字余りが目立ちます。何度も指を折り読み返してみてください。

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Chap.4 平田冬かのセレクト季寄せ

春の季語
水温む、山笑ふ、猫の恋、草の芽、木の芽、耕す、落椿、入学、卒業梅見、花見、葱坊主、春の花何でも、桜貝、磯遊び、野遊び、囀,蝶、草餅、ぶらんこ、遠足 春眠、などなど歳時記をご覧になってみてください。


初夏の季語(五月五日が立夏でしたので、この日より俳句の上では一応夏となります)
初夏 夏めく 夏来る 更衣 葉桜 新茶 鯉幟 新緑 若葉 若楓 万緑 筍 草笛 桐の花 豌豆 豆飯 芥子 薔薇 母の日 麦の秋 などなど他にも初夏の季語がありますが春夏構わず出合った季語を詠まれればよいと思います。


夏の季語は季節の中でも一番多く紹介するものを選ぶにつけても迷ってしまいます。

真夏の季語 (ほんの一部ですが抜き書きしました。参考にしてください。)
雲の峰 夕立 炎天下 日盛 西日 夕焼 片影 滝 清水 登山 ビール 金魚 浴衣 汗 扇 青田 簾 
昼寝 梅雨明 暑さ 緑陰 風鈴 花火 氷菓 ソーダ水 心太(ところてん)
蝉 空蝉 草いきれ 草刈り 
日焼 水遊 プール ヨット 夕顔 避暑 土用 向日葵 噴水などなど


初秋の季語 (立秋から秋となります。)
涼新た 七夕 星祭 天の川 盆 墓参 踊 流灯 秋めく 西瓜 南瓜 朝顔
稲の花 終戦日 ひぐらし
法師蝉 流れ星 桐一葉 残暑 露草など


秋の季語
月見 月光などに月に関するものすべて 流星 稲刈り 稲架(はざ) 藁塚 案山子
新米 鈴虫・こおろぎなど鳴く虫すべて 秋刀魚 鰯 鯊(はぜ) 水澄む
木犀 コスモス(秋桜) 木の実(どんぐリなど) 渡り鳥 鵙(もず) 小鳥類
草虱(衣服につく草の実) 鰯雲  野菊 菊人形 柿・ざくろなどの秋果
冬仕度 障子貼り  蔦紅葉 銀杏黄葉 (いちょうもみぢ) 山粧ふ 末枯(うらがれ)
秋惜しむ 破れ蓮(やれはちす) 身に入む 松手入など


冬の季語
山眠る 枯葉  枯野 木の葉髪(抜け毛) 凩(木枯) 七五三 小春
茶の花 山茶花 柊の花 短日 鴨 水鳥 浮寝鳥 都鳥 
おでん 焼藷 湯豆腐 冬菜 河豚(鰭酒、河豚鍋など) 熱燗 牡蠣
焚火 炬燵 風邪 冬帽子 マスク 手袋 日向ぼこ 着膨れ
霜 雪 風花 雪吊 師走 年用意 日記買ふ 賀状書く 年忘(忘年会)
寒の入り、寒中、日脚伸ぶ 三寒四温 悴む 寒卵 寒雀 寒の雨 避寒 
探梅 春隣 柊挿す 豆まきなど


新年の季語
去年今年(こぞことし) 元日 初日 初詣 賀状 年玉 初暦 
屠蘇 雑煮 注連飾 鏡餅 福寿草 春着 歌留多 仕事始 初鏡 出初式 初旅 
七草粥 初句会 初芝居 弓初め 初釜 獅子舞 など


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