2024年1月(兼題:「春待つ」、「冬北斗・寒昴」、「読初」)
<特選> 3句  
春を待つ殊に今年の能登はこそ 鈴木寛川
果たせざる約束いくつ寒昴 深谷美智子
花時計遅れを直し春を待つ 野村親信
<その他の入選> 25句  
生命線見せ合ふ二人春を待つ 本多悠天
淡き色増え待春のショーウインド 小森葆子
読み始む栞はさみしページより 小森葆子
マトリョーシカ窓辺に並び春を待つ 深谷美智子
読初は栞挿める頁から 深谷美智子
読初や珈琲の香に包まれて 深谷美智子
読初は故郷舞台のミステリー 太田眞澄
E・Tの漕ぎゆく空や冬北斗 太田眞澄
枕元積みある一書読初 宮田望月
姉に次ぎ弟(おとと)も逝きぬ冬北斗 新井康夫
弔ひに降り立つ駅は雪の中 新井康夫
新司悼む心に仰ぐ寒昴 山崎圭子
志望校大書の絵馬も春待てり 山崎圭子
春を待つマヌカンは早着替へたる 山崎圭子
水仙花苛立つ心鎮めけり 市川毅
年賀状今年限りと書かれあり 市川毅
読初は旅の案内書あれこれと 中島彩
綿菓子のやうな雲あり春近し 中島彩
目を閉づるまぶた温か寒昴 加藤雙慶
蝋梅の芯まで黄金光りかな 杉原洋馬
春待つや能登の被災地想ひつつ 杉原洋馬
読初は健康長寿レシピ本 北川和子
読初や活字大きな時代物 北川和子
朝日射し込みて輝く軒氷柱 鈴木六花
胎教にシンフォニー聴き春を待つ 野村親信
2023年11月(兼題:「冬の雨」、「セーター」、「河豚」)
<特選> 3句  
海峡の街の夕暮れ河豚の宿 北川和子
ふうふうと河豚の口して河豚を食ぶ 野村親信
讃美歌の漏れくる扉冬の雨 太田眞澄
<その他の入選> 25句  
河豚刺身皿の模様を透かし見せ 本多悠天
冬空の昴煌々新司逝く 本多悠天
魁の箸ためらへる河豚料理 小森葆子
手をつなぎ揃ひのセーター老夫婦 小森葆子
冬の雨いよいよ気持ち沈みけり 新井康夫
聞かさるる長き講釈河豚の鍋 新井康夫
ポン酢にも一家言あり河豚鍋屋 宮田望月
借りしまま形見となりぬカーデガン 鈴木寛
ほろ酔ひの頬に掛かれる冬の雨 鈴木寛
お下がりのセーター姉の匂せる 太田眞澄
ゆくりなき再会祝し河豚汁 加藤雙慶
焼香に傘の並べる冬の雨 加藤雙慶
時雨るるや一幅の絵となる狭庭 鈴木六花
年齢は問はずセーター重宝す 鈴木六花
河豚刺しの皿大輪の花模様 山崎圭子
どことなく静かな目覚め冬の雨 山崎圭子
捨てがたし母の手編みの古セーター 中島彩
早々と雨戸閉めたる冬の雨 中島彩
セーターの一着毎に想ひ出が 杉原洋馬
てつちりを囲むはらから皆老いぬ 深谷美智子
箒目をしづかに消しぬ初時雨 深谷美智子
憂き心晴れざるままに冬の雨 市川毅
しぐれ虹鉢植ゑ並ぶ路地の空 北川和子
ダム湖より立ち上がりたる冬の虹 北川和子
河豚刺しの端より箸にひと掬ひ 野村親信
2023年9月(兼題:「鰯雲」、「新米」、「虫(全般)」)
<特選> 3句  
旅めける夕べの散歩鰯雲 深谷美智子
遠州灘へとなだれ込む鰯雲 山崎圭子
終バスの明かり遠のく虫の闇 太田眞澄
<その他の入選> 20句  
満目のうねる田圃や豊の秋 本多悠天
新米に今日はお代はり三杯目 本多悠天
蚯蚓鳴く夜も更けたる旅の宿 新井康夫
妖艶な薫り一夜の女王花 新井康夫
「虫の声」唄ひ虫の名思ひ出す 小森葆子
掬ふ手をさらさらこぼれ今年米 小森葆子
新米やよくぞ瑞穂の国に生れ 宮田望月
町中の空き家の庭を萩埋む 宮田望月
酒蔵の裏へ回れば虫の闇 深谷美智子
ふるさともこの空の下鰯雲 深谷美智子
母のメモ通り新米研ぎにけり 太田眞澄
鬱蒼たる牧野庭園ちちろ鳴く 鈴木寛
今日まさに行合ひの空鰯雲 鈴木寛
吾が家の草庵に似て虫時雨 山崎圭子
モンゴルの草原をふと羊雲 杉原洋馬
長き夜や夢と現を繰り返し 市川毅
遠富士の稜線見えて今朝の秋 中島彩
彼岸花時を違へず咲きにけり 中島彩
邯鄲の果たして鳴きぬ御師の宿 野村親信
鉦叩メトロノームのテンポかな 野村親信
2023年7月(兼題:「熱帯夜」、「夏の果(夏終る)」、「どぜう鍋(泥鰌鍋)」)
<特選> 3句  
隣席と背中合はせの泥鰌鍋 小森葆子
夏の果拾ひし貝を耳に当て 深谷美智子
板の間に素足の仲居どぢやう鍋 野村親信
<その他の入選> 20句  
夏終る旅行計画倒れかな 宮田望月
熱帯夜寝苦し早やも暁烏 本多悠天
起重機のワイヤきりりと炎天下 太田眞澄
鎮魂の遠き青空夏終る 太田眞澄
旅鞄使はぬままに夏終る 深谷美智子
砂浜に流木光る夏の果 深谷美智子
ゆく夏の神社の松の夕翳り 鈴木六花
後ろめたさあり雀蜂駆除をして 杉原洋馬
夏終る旅の砂漠に夕日落つ 野村親信
父と子の恐竜図鑑夏休み 北川和子
ポツプコーン弾けるように雲の峰 北川和子
夢も見ずうつらうつらの熱帯夜 新井康夫
浴衣の子おもひおもひの店に群れ 新井康夫
下足札貰ひ座に入る泥鰌鍋 山崎圭子
夕鐘の余韻涼しき峡の里 山崎圭子
引きこもる日の続きもし夏の果 市川毅
愛読書手沢のつくも紙魚つかず 市川毅
緑陰や五臓六腑の透き通る 中島彩
水風呂に浸かつて見たく熱帯夜 鈴木寛
熱帯夜開けてぞ今朝は決勝戦 加藤雙慶
2023年5月(兼題:「夕焼」、「氷菓」、「向日葵」)
<特選> 3句  
目の中に飛び込み來たる夕焼かな 鈴木六花
江ノ電を待つ夕焼の海を前 太田眞澄
脳髄の心棒揺する氷菓かな 野村親信
<その他の入選> 12句  
ひまわりや大股歩き早あるき 宮田望月
大富士のうすれゆくなる夕焼かな 本多悠天
天然の氷自慢の峠茶屋 小森葆子
夕焼けに故郷の城屹立す 新井康夫
山並の闇際立たす夕焼かな 深谷美智子
夕焼や砂場に挿さるミニシャベル 鈴木寛
水平線眺めのベンチ氷菓舐む 山崎圭子
夕焼けに恥ぢることなき家路かな 加藤雙慶
振り向けば夕焼け小焼けの中に居り 中島彩
急ぎ足とどめたりけり大夕焼 市川毅
家々の灯ともし頃や大夕焼 北川和子
麦秋や友は異国の大地往く 杉原洋馬
2023年3月(兼題:「春疾風」、「厩出し」、「汐干狩・磯遊」)
<特選> 3句  
牧開き青き草地はポニー用 小森葆子
吹き飛びし選挙ポスター春疾風 新井康夫
大空を揺さぶれるかの春疾風 鈴木六花
<その他の入選> 22句  
滿ち汐に追はれて戻る潮干狩 宮田望月
土埃舞ひ上げ舞ひ上げ春疾風 鈴木六花
すぐそこに海見ゆる丘厩出し 本多悠天
脱ぎし靴母の番する磯遊び 本多悠天
春嵐着地よろめく鴉かな 本多悠天
農大の畜産学部厩出し 太田眞澄
道場を拭く水にさへ春来たり 加藤雙慶
春疾風干し物一つ飛ばされぬ 市川毅
われさきに飛び出すもをり厩出し 市川毅
幼児の攫はれさうや春疾風 深谷美智子
鬣に日の輝きて厩出し 深谷美智子
磯遊び少年細き臑見せて 深谷美智子
波追ひて父子の濡るる磯遊び 鈴木寛
波の穂を追ひかけ追はれ磯遊び 山崎圭子
何の穴かと掘りもする磯遊び 山崎圭子
天地(あめつち)に光溢るる厩出し 中島彩
奏楽堂楽譜を飛ばす春疾風 野村親信
御嶽の裾野の広く厩出し 野村親信
ちさき手にちさき貝殻磯遊び 北川和子
思ひ出をいつぱひ残し閉校す 北川和子
春眠し俳句手帳はまだ白紙 杉原洋馬
故郷へ近づく車窓山笑ふ 杉原洋馬
2023年1月(兼題:「冬の星」、「懐手」、「初湯」)
<特選> 3句  
玉の緒をとつぷり浸す初湯かな 山崎圭子
断り状書きあぐねゐる懐手 深谷美智子
初湯して海に日の出を待つならひ 小森葆子
<その他の入選> 25句  
銭湯に顔触れ揃ふ初湯かな 小森葆子
懐手売る気なさげの古本屋 本多悠天
懐手ほどくその手の所在なし 鈴木六花
凍星や帰る故郷すでになく 鈴木六花
問はれたる道あごで差す懐手 新井康夫
シリウスの光ひときは冬の星 新井康夫
真つ新なバスタオルの香初湯殿 太田眞澄
目を凝らしゐれば殖えくる冬の星 深谷美智子
磨かれしごとく凍星瞬ける 深谷美智子
入浴剤特に拘る初湯かな 宮田望月
手前味噌よき仕上がりの寒仕込み 宮田望月
若湯して殊更ほめく髪膚かな 山崎圭子
老海人の沖を眺めの懐手 山崎圭子
冬星座遠流の島の昔あり 山崎圭子
喰積に箸付くる順ありにけり 市川毅
冬の星見上げ歌ふは「運るもの」 加藤雙慶
雛飾る普段人気のなき和室 杉原洋馬
水面に湯気の立ちゐる寒さかな 杉原洋馬
正面に霊峰仰ぐ初湯かな 中島彩
やはらかに弾む木洩れ日春隣 中島彩
烏飛兎走令和五年の明けんとす 中島彩
番台に福銭貰ふ初湯かな 鈴木寛
客席の後ろ前座の懐手 鈴木寛
言ひたきを敢へて言はざる懐手 野村親信
極楽は母の口ぐせ初湯浴 野村親信
2022年11月(兼題:「冬夕焼」、「冬構」、「牡蠣」)
<特選> 3句  
家事の間の寸暇を惜み毛糸編む 小森葆子
兼六園縄の香高く冬構 市川毅
一刀にして開け口を牡蠣打女 山崎圭子
<その他の入選> 22句  
家々の影黒々と冬夕焼 鈴木六花
楽し気や誰がため毛糸編むならん 小森葆子
街路樹の切り詰められし冬構 本多悠天
昨日は生今日はフライに牡蠣料理 本多悠天
鍋いつぱい牡蠣むしあぐる夕支度 北川和子
濡れ落葉色とりどりの礼拝堂 太田眞澄
潮の香の豊かな牡蠣をすすりけり 太田眞澄
池によく映ゆる名松冬構 宮田望月
遠山は影絵となれり冬夕焼 新井康夫
行く秋や海は束の間静かかな 新井康夫
冬夕焼帰宅の足を止めにけり 市川毅
口切や亭主の手元ゆるぎなく 市川毅
幾たびも元の木阿弥落葉掃く 杉原洋馬
あつけなき友との別離冬夕焼 鈴木寛
荒き骨組にビニール冬囲 鈴木寛
家路へと誘ふチャイム冬夕焼 深谷美智子
山並の影くつきりと寒茜 深谷美智子
薪束を積む山荘の冬構 深谷美智子
手の窪に確と納めて牡蠣を剥く 山崎圭子
冬構遺影の妻に急かされて 加藤雙慶
一斉に帰船水尾引く冬夕焼 野村親信
ニコライの鐘の響交ふ冬夕焼 野村親信
2022年9月(兼題:「落し水」、「とろろ汁」、「生身魂」)
<特選> 3句  
芋二つ足して水車の良く回る 小森葆子
豊作を確信水を落としけり 中島彩
擂鉢にわづかな罅やとろろ汁 深谷美智子
<その他の入選> 17句  
とろろ汁鞠子の宿の丁子屋へ 小森葆子
争ひし石をずらして水落とす 小森葆子
水落し大河に戻しやりにけり 本多悠天
弓道に鍛へし姿勢生身魂 本多悠天
鍋奉行今宵はとろろ汁奉行 宮田望月
落し水武相の空にひびきけり 太田眞澄
すじ雲の朝の空や新松子 太田眞澄
ほかほかの炊き立てご飯とろろ汁 市川毅
欠かさざるテレビ体操生身魂 山崎圭子
落し水棚田それぞれ音違へ 山崎圭子
流し台下のあたりやちちろ鳴く 新井康夫
香りして金木犀の咲くを知る 中島彩
咲き尽きしかや朝顔を今朝は見ず 杉原洋馬
今はまだみどりの軸や曼珠沙華 鈴木寛
どの路地も木犀かをるころとなる 北川和子
豊饒の音高らかに落し水 野村親信
とろろ汁味もとろみも父好み 野村親信
2022年7月(兼題:「夏座敷」、「昼寝」、「蓮」)
<特選> 3句  
作業ベルト外し園丁三尺寝 山崎圭子
ゆふぐれの目覚め寂しき昼寝かな 深谷美智子
あどけなき昼寝顔かな反抗児 小森葆子
<その他の入選> 24句  
十畳を上下左右に昼寝の子 小森葆子
水もらひ喜々と回れる釣忍 市川毅
蓮の葉を大うねりさせ風渡る 宮田望月
簟(たかむしろ)艶光りして京町家 宮田望月
海の風山の風くる夏座敷 本多悠天
青畳かぐはしきかな夏座敷 本多悠天
夏座敷枯山水を眺めとす 野村親信
ひげを靡かせてアラブの外寝人 野村親信
箱根路の瀬音よろしき夏座敷 太田眞澄
蓮花の香の雅やか朝散歩 鈴木六花
朝まだき苑に蓮見の人あまた 鈴木寛
金色の相輪梅雨の空を突く 大田武
西空に三日月赤き熱帯夜 大田武
夏座敷冷たき水を以て拭きぬ 中島彩
仄と紅さして白蓮抽んづる 山崎圭子
衝立は深山幽谷夏座敷 山崎圭子
昼寝覚暫くは夢うつつなり 北川和子
それぞれに高さ競へる蓮の花 北川和子
わが居場所とつさに不明昼寝覚 深谷美智子
海風のほしいままなる夏座敷 深谷美智子
蓮の花親指姫も現れむ 新井康夫
大の字に寝転がりたく夏座敷 新井康夫
昼寝なら覚めよと祈る枕元 加藤雙慶
大望もなくて午睡の大鼾 杉原洋馬
2022年5月(兼題:「山滴る」、「ハンカチ」、「熱帯魚」)
<特選> 3句  
一滴が一滴誘ひ滴れり 山崎圭子
梯梧咲く沖縄返還五十年 鈴木六花
火砕流ありしと見えず山滴る 加藤雙慶
<その他の入選> 22句  
滴れる山を印象伊豆を去る 宮田望月
彩色の人智を超ゆる熱帯魚 宮田望月
満を持すかに滴りのまだ落ちず 小森葆子
汕頭(すわとう)のハンカチ壁の飾りとす 小森葆子
熱帯魚フリルのごとく尾びれ振る 本多悠天
遠くよりSL響く初夏の風 太田眞澄
待合室熱帯魚とも顔見知り 北川和子
軽鴨(かる)の子の早や自慢げに潜水す 北川和子
露天風呂滴る山を眺めかな 加藤雙慶
まだきより汗拭き首に畑仕事 鈴木康允
滴れる山ふところにジビエ膳 鈴木康允
花のごとハンカチ膝に広げけり 深谷美智子
くしゃくしゃのハンカチ出づる体操着 深谷美智子
ハンカチを振りておどける別れかな 深谷美智子
石南花の薄紅色に寺包む 新井康夫
藤棚に雉鳩の子の巣立ちけり 杉原洋馬
山滴る百名山の名を負ひて 野村親信
幾色の緑重ねて山滴る 中島彩
世の乱れ関り無げや熱帯魚 中島彩
天下布武の城を頂く青嶺かな 山崎圭子
ランウエイ歩くモデルよ熱帯魚 鈴木寛
ハンカチに無念の涙ぬぐひけり 市川毅
2022年3月(兼題:「春昼」、「昭和の日」、「若草」)
<特選> 3句  
一億の民の過去帳昭和の日 鈴木康允
若草の萌ゆる国境戦車行く 杉原洋馬
若草に座り母子の絵本繰る 小森葆子
<その他の入選> 21句  
まどろめる彼の世此の世や春の昼 本多悠天
「虚子百句」声出して読む虚子忌かな 本多悠天
やはらかな若草の風芳しく 新井康夫
旗振りしお召列車や昭和の日 宮田望月
聞こえくる校内放送春の昼 太田眞澄
若草に嬉々と転げる園児たち 太田眞澄
映画館の固き木椅子も昭和の日 小森葆子
春の昼猫の欠伸の移りもす 小森葆子
春の昼ままごと遊び聞こえくる 鈴木六花
春昼や止まりしままの掛け時計 深谷美智子
仄暗き歌声酒場昭和の日 深谷美智子
松の菰外す啓蟄日和かな 市川毅
春昼の時計の振り子伸びにけり 杉原洋馬
春の昼猫の背伸びを真似てみる 中島彩
春昼の針ゆつたりと花時計 山崎圭子
切通し抜け若草の古道かな 大田武
墓周り早や若草の埋め尽くす 鈴木寛
終点まで乗るバスの旅春の昼 鈴木寛
土塀よりぬっとたちたる夕桜 北川和子
旧友の訃報が届く春の昼 加藤雙慶
語り部といふべき母や昭和の日 野村親信
2022年1月(兼題:「凍る」、「セーター」、「焼芋」)
<特選> 3句  
焼芋の蜜の染みたる新聞紙 中島彩
凍る夜や学習塾の窓灯る 北川和子
街凍つるかに音のなし地震のあと 市川毅
<その他の入選> 21句  
やきいもの売り声追ひかけ買はんとす 宮田望月
凍て滝の内に水音ありにけり 小森葆子
な滑りそ夜半の道の凍ててをり 小森葆子
小流れの光る辺りは凍つるべし 本多悠天
子のセーター借りもし傘寿若返る 本多悠天
凍つるらし雨だれの音せずなんぬ 新井康夫
風呂吹きや八丁赤味噌に如くはなし 新井康夫
喜寿過ぎの明日へと開く初暦 太田眞澄
御手洗の竜の吐く水凍て知らず 山崎圭子
蓮の骨突き刺さるまま池凍つる 山崎圭子
樟脳の匂ふセーター古箪笥 鈴木康允
凍星をちりばめてゐる大欅 深谷美智子
焼き芋の焼け頃知らす匂かな 深谷美智子
蛍族ベランダ凍ててゐたるべし 加藤雙慶
凍て道を老いのペンギン歩きかな 鈴木寛
心字池点の辺りが凍りけり 野村親信
凍晴や透徹したる空の青 中島彩
英字紙が石焼き芋の包み紙 大田武
桶の水桶の形に丸く凍つ 大田武
凍て道や日向日陰のまざまざと 杉原洋馬
リハビリに向かう道すじ凍りたり 鈴木六花
2021年11月(兼題:「冬浅し」、「氷」、「葱・大根・白菜」)
<特選> 3句  
村十戸いづれの軒も大根掛く 小森葆子
レシピなき鍋に白菜放り込む 野村親信
梵鐘の余韻遠くに蓮枯るる 太田眞澄
<その他の入選> 28句  
窓際のうたた寝日和冬ぬくし 松尾直樹
大根を刻める音や朝餉待つ 松尾直樹
下校の子次々タッチ葱坊主 小森葆子
白菜の括られ畑に樽並び 小森葆子
鳥の声少し尖りて冬浅し 本多悠天
抱き合うて一家族らし寒の猿 本多悠天
今が旬利根のめぐみの深谷葱 宮田望月
冬はじめ初めて出来し逆上がり 太田眞澄
靴先に触れてみもする初氷 北川和子
冬晴れや楓(ふう)高々と聳え立つ 北川和子
冬浅く陽は山門にかたぶきぬ 新井康夫
何なくも白菜漬けで酒す々む 新井康夫
爪はじきして耳澄ます氷柱かな 鈴木六花
瑠璃色のつらら湯宿の軒先に 鈴木六花
白菜の根もとスパリと和包丁 鈴木康允
手びねりのぐい呑み二つ冬初め 鈴木康允
つくばひに蓋したるかの厚氷 市川毅
綿虫の行き先はただ風任せ 市川毅
煮含めて鼈甲色の大根かな 山崎圭子
青空市積める白菜尻白し 山崎圭子
冬の朝へのへのもへじ曇り窓 加藤雙慶
透明湖うすむらさきに結氷す 野村親信
掃く向きに逆らひ舞へる落葉かな 中島彩
町会の消火訓練冬はじめ 鈴木寛
泥葱を剥けば輝く白さかな 深谷美智子
関東の空の広さや葱畑 大田武
花八手華やぐことの無かりけり 杉原洋馬
高々と皇帝ダリア皆背伸び 杉原洋馬
2021年9月(兼題:「良夜」、「新酒」、「渡り鳥(鳥渡る)」)
<特選> 3句  
星々の常より近し野分あと 深谷美智子
新酒利く蛇の目は澄みて藍深し 宮田望月
浮御堂影絵のやうな良夜かな 山崎圭子
<その他の入選> 24句  
戸締りを少し遅らす良夜かな 本多悠天
コロナの世関りもなく鳥渡る 加藤雙慶
入り舟の水脈の一筋良夜かな 小森葆子
岬に立つ今日こそ鷹の渡るべし 小森葆子
再会を果たして酌める今年酒 北川和子
相模湾漁火見えぬ良夜かな 宮崎勉
新走蔵は有形文化財 鈴木康允
書斎の灯あへて消しもす良夜かな 鈴木康允
風に乗り時に逆らひ鳥渡る 野村親信
高空をくの字への字に鳥渡る 野村親信
二拍子の研師の仕上げ爽やかに 太田真澄
代々の蔵に仕込める新酒かな 太田真澄
ある時は横一線に鳥渡る 市川毅
炊き立てのご飯如(し)くなしとろろ汁 市川毅
ふと外に出たくなりたる良夜かな 鈴木六花
雲間をば縫ひつつ鳥の渡りけり 鈴木六花
木犀の香に曲りたる路地迷ふ 新井康夫
大空を楽しむがごと夏の蝶 杉原洋馬
帰路少し遠回りする良夜かな 深谷美智子
大いなるへの字とはなり鳥渡る 山崎圭子
盃を傾けてゐる良夜かな 中島彩
光増す池の漣鳥渡る 鈴木寛
西方へ一羽の遅れ鳥渡る 大田武
鷹降下断崖に影滑らせて 大田武
2021年7月(兼題:「夏の雲」、「原爆忌」、「白靴」)
<特選> 3句  
家事のままなる黙祷や原爆忌 山崎圭子
白靴の砂の思ひ出由比ヶ浜 野村親信
夏雲や母校は坂の上にあり 大田武
<その他の入選> 21句  
夏雲をポップステップしてみたき 小森葆子
大空を変幻自在夏の雲 小森葆子
甲子園ぐんぐん伸びる雲の峰 本多悠天
語部の少年老いぬ原爆忌 宮田望月
原爆忌かの日のままにある瓦礫 鈴木康允
土寄せの鍬打つ朝雲の峰 鈴木康允
白靴の出で来鎌倉資料館 宮崎勉
白い鳩大空翔くる広島忌 山崎圭子
切株の年輪いびつ原爆忌 太田真澄
科学の子立ち止まる日よ原爆忌 加藤雙
語り部の老ゆるばかりや原爆忌 深谷美智子
陽の如く高きひまはり見上げけり 新井康夫
雲の峰霊峰富士を凌ぎけり 中島彩
夏帽子ただ黙々と庭手入 中島彩
「ひろしま」を知らず令和の原爆忌 北川和子
白壁の蔵を呑むかに夏の雲 鈴木寛
いざ頼む老体昭和の扇風機 杉原洋馬
白靴を手に砂浜を歩きけり 大田武
雲眺め雲見て飽きず夏の午後 鈴木六花
被爆者のまた一人減り原爆忌 野村親信
籠りゐてすでに雲居の空は秋 井脇浩之
2021年5月(兼題:「夏野」、「清水」、「雨蛙」)
<特選> 3句  
蛙鳴くときに輪唱ときにソロ 小森葆子
清水湧く地球の息吹上げるかに 鈴木寛
全長を見せ貨車の行く夏野かな 本多悠天
<その他の入選> 20句  
跳んで知る足の長さや雨蛙 宮田望月
紫陽花の花芽色つき初めにけり 井脇浩之
リュック背に夏野の課外授業かな 太田真澄
草千里目の前にして氷菓舐む 宮崎勉
白南風や稜線しるき薩摩富士 宮崎勉
利き酒のやうに含める山清水 小森葆子
石清水口尖らせて啜りけり 小森葆子
戦跡の洞窟暗き夏野かな 北川和子
道連れは流るる雲よ夏野行く 深谷美智子
清水飲む首までしづく滴らせ 深谷美智子
七堂の跡てふ一碑大夏野 山崎圭子
雨蛙保護色となり身じろがず 市川毅
掬ふ掌をするるこぼるる岩清水 鈴木六花
見てみてと開く子の手に雨蛙 鈴木寛
夕日落つ北の大地の大夏野 鈴木康允
コロナ禍になすすべのなく春行きぬ 新井康夫
幾つもの緑集まる夏野かな 中島彩
緑陰の一隅光る花は何 杉原洋馬
演習の砲声近き大夏野 野村親信
雲の影追ひかけて来る夏野かな 野村親信
2021年3月(兼題:「花冷」、「目刺」、「春眠」)
<特選> 3句  
花冷や客待ち車夫の膝を抱く 本多悠天
ライトアップ消え花冷えの俄かかな 小森葆子
朝食は一汁二菜目刺焼く 鈴木康允
<その他の入選> 16句  
土光さんの信念ちょぴり目刺焼く 宮田望月
祝宴の果てたる夕餉目刺焼く 小森葆子
春眠やサイレン遠く遠く聞く 太田真澄
小さき手を握りみどり児春眠す 北川和子
春眠や漢字検定本脇に 宮崎勉
羽織るもの欲し花冷えの夜の帰路 鈴木康允
居酒屋の恋しき自粛花の冷え 新井康夫
目刺焼く海の色焦がさぬやうに 山崎圭子
温つたかいもの何か欲し桜冷え 鈴木寛
花冷えや今宵のスープ実沢山 鈴木六花
目刺焼く後姿の母老いぬ 市川毅
咲き急ぎ散り急ぎたる桜かな 中島彩
花冷えの鏡の中の己が顏 野村親信
春眠やコーヒー全く効き目なし 野村親信
花冷や昼を灯して小商ひ 深谷美智子
春眠や心地よく聞く雨の音 杉原洋馬
2021年1月(兼題:「冬深し」、「冬帽子」、「大根」)
<特選> 3句  
大根引き首級の如く掲げたる 大田武
切干の軽し大根二本分 鈴木康允
抜けとこそ競ひ乗り出す大根かな 山崎圭子
<その他の入選> 20句  
高層の窓の一つに懸大根 小森葆子
踏切を待つ間の長し寒風裡 小森葆子
スワンボート岸に繋がれ冬深し 宮田望月
不揃ひも吾が畑のもの大根干す 本多悠天
冬帽も飛びさう怒涛前にして 本多悠天
風花や幟はためく造成地 宮崎勉
冬帽子稚児すやすやと母の胸 太田真澄
明け空の宇宙は無限冬深し 太田真澄
処々抜かれ歯抜けの大根畑かな 山崎圭子
家居してひとり吟ずる初稽古 市川毅
大根を抜きたる闇の穴並ぶ 鈴木康允
松飾るコロナ封じの願ひ込め 新井康夫
アルバムのあの時もこの冬帽子 鈴木寛
目覚めれば風の音のみ冬深し 北川和子
膜の張るホットミルクや冬深し 北川和子
飛行場跡地の欅冬深し 深谷美智子
仕草真似見るや遺愛の冬帽子 鈴木六花
冬帽子今朝も歩かん一里ほど 杉原洋馬
不揃ひのラインダンスや干大根 中島彩
野良が好き母はいつもの冬帽子 野村親信
2020年11月(兼題:「冬晴」、「日記買ふ・日記果つ」、「枯木」)
<特選> 3句  
三日月のひかかりゐたる枯木かな 宮田望月
コロナ禍や余白の目立つ日記果つ i市川毅
寄生木(ほよ)の毬満艦飾の大枯木 山崎圭子
<その他の入選> 18句  
小春日や上着片手の昼下り 本多悠天
長き竿届かぬ高さ柿残る 小森葆子
炊飯の湯気の匂ひや冬の朝 太田真澄
続けられさうと一行日記買ふ 太田真澄
冬銀河いよいよ風の荒びけり 宮崎勉
生き様を残さん日記買ひにけり 鈴木康允
鍛へしは自決のためか憂国忌 北川和子
電飾に夜は華やぐ枯木立 山崎圭子
裸木の千年公孫樹神々し 鈴木寛
七曜のせはしく過ぎて日記果つ 深谷美智子
冬晴れや遠富士少し近くなる 深谷美智子
枯木には枯木の矜持ありにけり 鈴木六花
疫除けのアマビエ褪せし時雨かな 杉原洋馬
冬晴れや雄姿くっきり富士の峰 新井康夫
冬晴や東に筑波西に富士 大田武
日記買ふ余生数ふる年となり 中島彩
蔓手繰り手繰りて寄せぬ烏瓜 中島彩
月光に枯木の影の鮮やかに 野村親信
2020年9月(兼題:「秋風」、「干柿」、「紅葉(全般)」)
<特選> 3句  
秋風に筆心地良く走りけり 野村親信
干し柿の陽の恵みなる甘さかな 深谷美智子
ベランダの鉢の野草も紅葉づれり 宮田望月
<その他の入選> 24句  
柿簾越しに声かけ道を訊く 本多悠天
競技場人一人見ず秋の風 本多悠天
秋風に辿る大仏切通し 宮崎勉
道のべに古る女人塚ちちろ鳴く 宮崎勉
奥社へと続くこの道紅葉濃し 小森葆子
よく揺るる吊橋渡り紅葉狩 小森葆子
二階窓丈の揃はぬ柿吊るす 小森葆子
秋の蝶ゆるりゆるりと遠ざかる 市川毅
亀の子の泳ぐ手足のちぐはぐに 太田真澄
紅葉狩り予報外れし今朝の空 太田真澄
カフェテラス花野の風のここまでも 鈴木六花
雨あがり朽葉の上の散り紅葉 北川和子
四五連の柿干す路地の二階窓 鈴木康允
なほ奥の堂へ抜け道紅葉坂 鈴木康允
家ごとの拘り見ゆる吊し柿 山崎圭子
嘗てここ塩田の跡秋の風 山崎圭子
瀬を速みゆくは紅葉の筏かな 山崎圭子
忽然と庭の木陰に彼岸花 新井康夫
ホホヅキの日毎に朱色深まりぬ 杉原洋馬
履きしままゴム長洗ふ日短 大田武
秋風とともに届きぬ友の文 中島彩
秋立ちぬ昨日に続く今日なれど 中島彩
秋風や閉店目立つ商店街 鈴木寛
大学へ銀杏黄葉の道真直 野村親信
2020年7月(兼題:「暑し・極暑・炎暑等」、「海水浴・泳ぎ」、「蜘蛛」)
<特選> 3句  
熱々のカレーうどんに暑気払ふ 山崎圭子
設計図通りか蜘蛛の網模様 市川毅
八十路にもときめきのあり更衣 杉原洋馬
<その他の入選> 28句  
遠泳の果てたる浜にへたり込む 本多悠天
今日こそは決着つけむ炎暑行く 本多悠天
街暑しドリアン売りの声過ぎる 小森葆子
目指せるはシニア杯なり日々泳ぐ 小森葆子
船泊り油膜漂ふ炎天下 宮崎勉
碧天に雲一つ無き原爆忌 宮崎勉
蜘蛛の囲の光る雨粒ネオン街 太田真澄
秒針の休まず刻む熱帯夜 太田真澄
炎天に姿勢崩さず六地蔵 鈴木康允
唇の青くなるまで水遊び 鈴木康允
コロナ禍に人まばらなる海開き 北川和子
泳ぎ終へこんなに体重きとは 北川和子
蜘蛛の巣に引つ掛かりもす朝の道 中島彩
ここよりは神の領域木下闇 中島彩
くもの巣をコロナ退散魔除けとす 宮田望月
手信号して潮浴びの子を呼べり 山崎圭子
旧番所木戸鎖すままに蜘蛛の網 山崎圭子
かき氷頭の芯の痺れ来ぬ 新井康夫
雪洞りの灯りゆかしき古都の夏 新井康夫
五月晴少し遠出に犬を供 杉原洋馬
石塀に影の貼りつく暑さかな 深谷美智子
泳ぎ来し子を拭きやれば水匂ふ 深谷美智子
蜘蛛の囲に蜘蛛居て風に吹かれけり 大田武
掃除機に蝿取蜘蛛の吸はれけり 鈴木寛
川の面を叩きに叩く大夕立 鈴木六花
水遊びみぎはに築く砂の城 鈴木六花
ライオンのたてがみ長き暑さかな 野村親信
蜘蛛の囲の雨粒ダイヤ光かな 野村親信
2020年5月(兼題:「立夏・夏来る」、「風薫る」、「薔薇」)
<特選> 3句  
風薫り耳目一斉動き出す 市川毅
薔薇摘花今宵はバラの湯にせんと 小森葆子
記念日の卓に一輪赤薔薇 鈴木康允
<その他の入選> 31句  
縄のれんとはなる店や夏来る 小森葆子
大の字に寝転ぶ夏の座敷かな 小森葆子
紋章のバラ爛漫と公爵邸 小森葆子
向かひ合ふ二人に卓の薔薇かな 太田真澄
さざ波を光らせて行く風五月 太田真澄
深呼吸また深呼吸風薫る 本多悠天
ひなげしは風と仲良し揺れどほし 本多悠天
空き瓶に薔薇の一輪吾が机上 市川毅
薫風や磴千段の奥の院 鈴木康允
奥入瀬の瀬音高まる立夏かな 宮崎勉
初めての乗馬体験風薫る 宮崎勉
サッパ舟棹差す娘花あやめ 宮田望月
薔薇散華ボッティチェリのビーナスに 宮田望月
垣根越し甘き薔薇の香届きけり 鈴木六花
夕方のぶらり散歩や夏来る 鈴木六花
薔薇一輪憂ひ秘むかの真紅かな 中島彩
鶯の声に散歩の足止むる 中島彩
結ひ上げし襟足眩し夏来る 山崎圭子
踊り子像踊り出しさう風薫る 山崎圭子
薔薇園のダマスク殊のほか香る 北川和子
疫退散願掛け赤き薔薇飾る 新井康夫
しだれ萩苑の順路を塞ぎもす 新井康夫
草葺きの弥生の遺跡風薫る 鈴木寛
コロナ除け深紅の薔薇を咲かせけり 杉原洋馬
休講の続くキャンパス夏立ちぬ 深谷美智子
デスティニーてふ名を負ひて薔薇真紅 深谷美智子
薔薇咲かせコロナ籠りの婦人かな 深谷美智子
万のバラ戦(そよ)ぐ港の見える丘 野村親信
エレベーター出れば天上薔薇の園 野村親信
雨しづく紅に染む薔薇の花 大田武
梅雨晴や隣の家の犬騒ぐ 大田武
2020年3月(兼題:「麗か(うらら)」、「桜・花」、「鞦韆(ぶらんこ)」)

<特選> 3句  
一木の歓喜のさまに花吹雪く 本多悠天
疫憂ふ今年も燕来たりけり 大田武
花見茣蓙テデイーベアも傍らに 小森葆子
<その他の入選> 26句  
花筏ちぎれぬ亀の首触れて 本多悠天
島うらら鳶の笛のあちこちに 本多悠天
烏帽子岩遥かに春の富士模糊と 太田真澄
うららかや双子の眠るベビーカー 太田真澄
篝火に花の舞ひ散る能舞台 宮崎勉
一燭のおぼろにませる観世音 宮崎勉
ショーウインドはパステルカラー春の風 宮崎勉
子ら去りてなほもブランコ揺れてゐる 小森葆子
ケーブルの窓に傾く花の山 小森葆子
疫病禍ふらここ今日も動かざる 市川毅
疫病禍関りもなく桜咲く 宮田望月
花色のぼんぼり花を待ちにける 北川和子
天の高みへとふらここ漕ぎに漕ぐ 鈴木康允
添はんとし又も離るる花筏 山崎圭子
花の雲次々出づる観覧車 山崎圭子
庭に茣蓙隣人招き夜の花見 野村親信
戦火免れし母校の桜かな 野村親信
天平の乙女もかくや若菜つむ 杉原洋馬
梵鐘の遠く響ける夕桜 深谷美智子
ふらここを高く高くと漕ぎ合へり 深谷美智子
人の世の憂ひ知らぬげ花ざかり 中島彩
灯を浴びていよよ白梅白きかな 中島彩
垣根越え溢れんばかり雪柳 新井康夫
ふらここを漕ぐ子ら声を弾ませて 鈴木六花
少しだけ遠回りせん花の道 鈴木六花
ぶらんこに坐る鉄棒諦めて 鈴木寛
2020年1月(兼題:「書初」、「冴ゆ」、「鷹」)
<特選> 3句  
落款もぴたりと決まり筆始 山崎圭子
鷹匠の弓手の鷹の鎮まらず 本多悠天
身を浄め一気呵成の吉書かな 野村親信
<その他の入選> 25句  
アンデスの嶺嶺を眼下に鷹舞へる 小森葆子
初孫の名を大書せる筆始 小森葆子
街い行く吾が靴音や月冴ゆる 太田真澄
空海も良寛も好きお書初 鈴木六花
月冴ゆる夜目にも白き砂浜に 本多悠天
電波塔立つ漆黒の闇冴ゆる 鈴木康允
明星の冴え冴え光る家路かな 宮田望月
初漁やエンジン響く港町 宮崎勉
分校は閉ざされしまま山眠る 宮崎勉
発声の基本に戻り初稽古 市川毅
のびのびと「ゆめ」と書かれし吉書かな 北川和子
放鷹(ホウヨウ)に殿様気分三の丸 北川和子
星冴ゆる生家の戸口出てみれば 深谷美智子
山越しに冴え冴え見ゆる雪の富士 深谷美智子
金的を射止む一瞬矢音冴ゆ 山崎圭子
手鑑は千字文なり筆始 山崎圭子
青空に泰然自若鷹の舞ふ 中島彩
書初や必勝の文字太太と 鈴木寛
平家池らしく山茶花赤ばかり 新井康夫
書初や令和縁の万葉歌 野村親信
湯たんぽの母の温もり抱いて寝る 杉原洋馬
天守なき城址三日月冴えにけり 大田武
黄昏の鴨皆影となりて浮く 大田武
書初の紙をはみ出す勢(きほひ)かな 鈴の木正紘
鳴き声の嬰かと紛ふ猫の恋 鈴の木正紘
2019年11月(兼題:「小春」、「年用意」、「蜜柑」)
<特選> 3句  
言ふべきか言はざるべきか蜜柑剥く 本多悠天
洋梨の異形ムンクの叫びかな 新井康夫
磯宮の錨錆びをり神の留守 宮崎勉
<その他の入選> 19句  
新しき箸買ひ足すも年用意 太田真澄
災害の跡そのままに山眠る 本多悠天
利根川に釣り師の並ぶ小春かな 宮崎勉
部屋ぢゅうに樟脳匂ふ冬支度 小森葆子
庫裡の軒薪高く積み冬用意 小森葆子
愛飲の銘酒取り寄せ年用意 鈴木康允
メモ要らず老いの二人の年用意 市川毅
蜜柑もぐ親子三代総出して 宮田望月
飲屋街にも花壇あり年用意 北川和子
畑の幸筵に干して里小春 山崎圭子
年用意独り居なれど怠らず 中島彩
龍の玉箒持つ手のふと止まり 中島彩
天使像片翼もがる野分かな 杉原洋馬
断捨離を肝に銘じて冬用意 鈴の木正紘
薬袋溢れむばかリ年用意 鈴木寛
年用意一つ一つに母の声 鈴木六花
柔らかき皮固き皮蜜柑むく 深谷美智子
海賊の裔の生業蜜柑摘む 野村親信
小春日や人影にすぐ鯉寄り来 大田武
2019年9月(兼題:「秋惜しむ」、「花野」、「地芝居」)
<特選> 3句  
隈取の忠治見え切る村芝居 鈴木康允
鵜供養の済みし長良川(ながら)に秋惜しむ 山崎圭子
パラグライダー飛び行く那須の大花野 宮崎勉
<その他の入選> 22句  
三国志展を見終へて秋惜しむ 本多悠天
地芝居の玄人はだしとやいはん 市川毅
その先に瀬音聞こゆる花野かな 深谷美智子
草分けて道なき道を花野行く 深谷美智子
子供歌舞伎祖父のおひねり飛びにけり 宮田望月
地芝居のまたも台詞に詰まりけり 小森葆子
入口も出口もあらぬ花野かな 小森葆子
大粒の葡萄値を見て戻しけり 新井康夫
大花野雲を友とす一人旅 北川和子
見得を切る子供歌舞伎の役者かな 北川和子
地芝居の子役見守る母の顔 鈴木六花
秋惜しむ音楽堂にチェロを聴き 鈴木六花
前垂れの褪せゐる地蔵花野道 鈴木康允
山囲む底の花野を漕ぎ行けり 大田武
科白出ず客の掛け声村芝居 鈴木寛
新涼や背すじ伸ばして朝散歩 中島彩
夢うつつ声明めける虫時雨 中島彩
夕顔の底光りする白さかな 杉原洋馬
単線の一両電車大花野 山崎圭子
朝靄の中を鋭き鵙の声 宮崎勉
村芝居馬の後脚助役とか 野村親信
地芝居の海女のお岩の逞しき 野村親信
2019年7月(兼題:「日焼」、「滝」、「冷奴」)
<特選> 3句  
冷奴くづし本音をふと洩らす 宮崎勉
近づいてまた遠ざかる滝の音 鈴木六花
日焼けの子海のにほひをさせ帰る 小森葆子
<その他の入選> 23句  
海の子の日焼の肌の黒光り 本多悠天
遠望の滝の一筋音も無く 本多悠天
睫毛まで日焼けしてゐる浜の子ら 野村親信
一丁を分けて二人の冷奴 野村親信
大瀑布ただただ仰ぐばかりかな 市川毅
農夫我首筋までも日焼けして 鈴木康允
結局は絹ごしを買ひ冷奴 鈴木康允
日矢届く滝の一条奥の院 鈴木康允
白鉢巻ボールを追へる日焼かな 宮田望月
合歓の花陰にやや児の眠りをり 宮崎勉
山風に乗り行く読経滝開き 北川和子
冷奴好む歳となりにけりし 小森葆子
日焼けの子すでに背丈は母を越え 深谷美智子
ガラス器に薬味あれこれ冷奴 深谷美智子
献立に迷ひし時は冷奴 山崎圭子
滝頭見んと急梯登りけり 山崎圭子
浜走る足裏真つ白日焼けの子 鈴木寛
盆棚に知らぬ祖先の位牌見ゆ 杉原洋馬
球児らの皓歯際立つ日焼け顔 中島彩
剣持つ滝を背(そびら)の不動尊 新井康夫
家中に月下美人の香り立つ 新井康夫
冷奴マジック書きのお品書き 大田武
ひと山を越えて眼下の滝細し 大田武
2019年5月(兼題:「短夜」、「青田」、「夏木立・新樹」)
<特選> 3句  
記念館へと夏木立縫ひ行けり 深谷美智子
短夜や枕辺に置く旅鞄 宮崎勉
こんな夢見るんだという夢明け易し 鈴木六花
<その他の入選> 22句  
下総と常磐つなぐ青田原し 小森葆子
青田波うねりうねりて山裾へ 小森葆子
神饌の悠紀斎田青田風 宮田望月
短夜や旅に練り上ぐ行程表 宮田望月
青空を映す余地なき青田かな 本多悠天
冥土かも夢か現か明け易し 本多悠天
短夜や旅の支度のあれやこれ 鈴木康允
短夜の旅寝に遠く波の音 深谷美智子
トンネルの出口眩しき新樹光 北川和子
筑波嶺の稜線けぶり梅雨兆す 宮崎勉
明早し来世は鳥もよきかなと 鈴木寛
峡の宿水潺々と明易し 山崎圭子
丘の上青田を渡る風の見ゆ 市川毅
歩み止め新樹の中の深呼吸 市川毅
競ひ合ふかに緑増す新樹かな 中島彩
緑風や五臓六腑の軽きこと 中島彩
水撒けばそこに降り立つ夏の蝶 杉原洋馬
相模野の富士山望む青田かな 新井康夫
踏切にしばし手かざす薄暑かな 鈴木六花
何度でも見る目覚ましや明け易し 鈴木六花
翼下いま輝く青田鏡かな 大田武
田の神を祀れる宮へ青田道 野村親信
2019年3月(兼題:「早春・春浅し」、「春愁」、「鳥帰る」)
<特選> 3句  
鳥帰る日毎急かるる畝づくり 鈴木康允
天空の道を違はず鳥帰る 野村親信
春愁やいびつに減りぬ靴の底 深谷美智子
<その他の入選> 18句  
鳥帰るレーダー持つかに北目指し 小森葆子
追つかける菜の花前線養蜂家 宮田望月
靖国や散華の如く桜散る 本多悠天
春浅し土塊砕く鍬の音 鈴木康允
日を返しきらめく川面春近し 鈴木六花
春浅し浅間小浅間白きまま 鈴木六花
武蔵野の空をはるかに鳥帰る 深谷美智子
春愁や納豆のごと脳粘る 鈴木寛
予報なく前触れもなき余寒かな 新井康夫
煩悩のあるままで良し朧月 中島彩
恋の蟇(ヒキ)啓蟄待たず穴出づる 杉原洋馬
春愁を払はん墨を磨りにけり 市川毅
ワイン買ふ夕暮の街春愁 北川和子
鳥帰る飛行機雲も北をさす 山崎圭子
観音に秘めし十字や春愁 山崎圭子
早春の足裏(あうら)に弾む土手を行く 鈴の木正紘
早春や富士山麓の地図広げ 宮崎勉
春愁独り珈琲豆挽きぬ 大田武
2019年1月(兼題:「氷柱」、「日向ぼこ」、「歌留多」)
<特選> 3句  
日向ぼこ話し上手に聞き上手 野村親信
夫の背の丸さ愛ほし日向ぼこ 鈴木六花
いにしへのあまたの恋や歌かるた 深谷美智子
<その他の入選> 20句  
腰浮かしいざと構ふる歌留多取り 本多悠天
日なたぼこ良寛逝きし歳となる 宮田望月
兄が踏み弟も踏む霜柱 小森葆子
釣果などなくてもよろし日向ぼこ 小森葆子
深川は橋多き町福詣 宮崎勉
日の差すや輝く千の滝氷柱 鈴木康允
店番をしつつ老婆の日向ぼこ 鈴木康允
芯に日を閉ぢ込め氷柱解け初むる 大田武
どら猫に一瞥されて日向ぼこ 大田武
得意札掠めとらるる歌留多かな 深谷美智子
広縁に棋譜並べつつ日向ぼこ 市川毅
得意札ひたすら見据ゑ歌留多取 山崎圭子
大甍櫛比をなせる軒氷柱 山崎圭子
ラジオから与太郎噺日向ぼこ 鈴木寛
彼岸へと続きさうなる日向ぼこ 北川和子
取り札を孫と競へる歌留多かな 北川和子
日向ぼこ午睡往生かくのごと 杉原洋馬
朝刊を広げゆつくり日向ぼこ 鈴の木正紘
日向ぼこ位牌磨きつ縁側に 中島彩
日向ぼこいつの間に本取り落とし 新井康夫
2018年11月(兼題:「寒し」、「山眠る」、「湯豆腐」)
<特選> 3句  
息白く渚を駆くる当歳馬 宮崎勉
生家いま空家のままに山眠る 深谷美智子
湯豆腐は木綿が好みコップ酒 鈴の木正紘
<その他の入選> 20句  
小雨降る飯盛山の墓寒し 鈴木康允
湯豆腐を好める齢となりにけり 小森葆子
山眠る採石の音谺して 小森葆子
古民家の土間に漂ふ寒さかな 市川毅
山眠る色無きなかに見ゆる色 宮田望月
満天の星の煌めき山眠る 本多悠天
崩落の跡をあらはに山眠る 宮崎勉
孫来る日近しいそいそ布団干す 新井康夫
採石の跡をあらはに山眠る 山崎圭子
鉄塔は仁王立ちなり山眠る 山崎圭子
湯豆腐やことりと揺らぐ頃合を 山崎圭子
湯豆腐の静かに揺らぐ二人酒 北川和子
山眠る郷里車窓に過ぎ行けり 大田武
冬の波ひじり配流の磯洗ふ 大田武
湯豆腐の食べごろ小さき音たちぬ 中島彩
ゴンドラの空中散歩渓紅葉 鈴の木正紘
道端にペットボトルの供華寒し 鈴木寛
極小の熊手今年も酉の市 杉原洋馬
湯豆腐の踊りはじめを掬ふべし 鈴木六花
けもの道ひとつにあらず山眠る 野村親信
2018年9月(兼題:「行く秋」、「天の川」、「茸:松茸」)
<特選> 3句  
空の果て地の果てまでも鱗雲 中島彩
茶屋主きのこ博士と呼ばれをり 小森葆子
行く秋や灯(ひとも)し頃のビルの街 深谷美智子
<その他の入選> 14句  
銀漢や停電の街ほの照らす 宮田望月
まづは嗅ぐさすが松茸ご飯かな 本多悠天
墨東に篠笛ひびき観月会 宮崎勉
李白の詩吟じ古城の秋惜しむ 宮崎勉
腰掛けよとばかり盤をなす茸 山崎圭子
耳元に不意に蚊の音寝入りばな 市川毅
逝く秋やこれからのこと今日のこと 鈴木康允
ゴルフボール探せどもまた白茸 鈴木寛
かりそめがやがて定着秋気配 杉原洋馬
ただならぬ赤さの茸名を知らず 深谷美智子
切株に見慣れぬ茸出てをりぬ 鈴の木正紘
行く秋や独り居の友訪ねたり 鈴木六花
熊除けの鈴犬につけ茸狩 野村親信
テント出て親子で仰ぐ天の川 大田武
2018年7月(兼題:「晩夏・夏の果て」、「団扇」、「苺」)
<特選> 3句  
海士の四肢黒光りせる晩夏かな 宮崎勉
夏の果傷はやうやくかさぶたに 野村親信
少年の声変りして夏終る 山崎圭子
<その他の入選> 19句  
寝付くまで母は団扇であふぎくれ 宮田望月
夏果てて無人駅舎に戻りけり 本多悠天
胸元をつまみ上げもし団扇風 山崎圭子
龍神を祀る磯山花海桐 宮崎勉
白檀の香りかすかに古扇 小森葆子
夏草や休めしままの登窯 鈴の木正紘
炎天下己が影踏み独りゆく 市川毅
白磁には蔕のみ残る苺かな 大田武
虹仰ぐこの吉兆を分かちたし 中島彩
急かすかに団扇縁台将棋かな 鈴木寛
朝夕の水遣り空し大旱(ひでり) 杉原洋馬
寝つきたる手より落ちたる団扇かな 新井康夫
単線の鉄路揺らぐや晩夏光 鈴木康允
七輪の煙追ひやる渋団扇 鈴木康允
団扇風読経を上ぐる僧の背へ 鈴木康允
往診の医師に送れる団扇風 深谷美智子
忙しなく扇子つかひて商談す 深谷美智子
人気なき午後の校庭夏深し 深谷美智子
役者絵の団扇長き柄しならせて 野村親信
2018年5月(兼題:「薄暑」「夏料理」「蝉・空蝉」)
<特選> 3句  
五月晴クレーンすつくとビルの上 大田武
空蝉の足しつかりと岩捉へ 本多悠天
せせらぎの音も肴や夏料理 深谷美智子
<その他の入選> 22句  
独り居の昼餉はいつも冷奴 山田敏
魂ともに抜けしうつせみ清々し 宮田望月
仕上げにとハーブを添ふる夏料理 小森葆子
背を割って今し生まるる蝉白し 小森葆子
空蝉の生身の跡を残さざる 市川毅
畑仕事朝日のすでに薄暑光 鈴木康允
軽暖や上着を肩に京の路地 鈴木康允
浅間嶺に雲湧き出づる薄暑かな 宮崎勉
袖口をたくし上げもす薄暑かな 鈴の木正紘
歯応への採り立て野菜夏料理 鈴の木正紘
格子窓連なる小路古都薄暑 深谷美智子
木漏れ日に空蝉の身の透き通る 深谷美智子
スマホ手にランチ待つ列街薄暑 鈴木寛
吾庭の胡瓜も添ふる朝げかな 新井康夫
笹の葉をあしらふ切子夏料理 山崎圭子
菩提樹に縋りてをりぬ蝉の殻 山崎圭子
碁盤割ありし斎野燕飛ぶ 山崎圭子
箸置きも硝子に変へぬ夏料理 鈴木六花
一輪挿しドクダミの花楚々とあり 杉原洋馬
山並に窓開け放つ夏料理 野村親信
一山のみんみん和讃さながらに 野村親信
脱け殻に縋りて蝉の朝を待つ 大田武
2018年3月(兼題:「長閑」「春の星」「新社員」)
<特選> 3句  
磯宮の笛吹く鳶や雛送り 宮崎勉
独り身や語りかけたき春の星 市川毅
ぎごちなく名刺交換新社員 深谷美智子
<その他の入選> 25句  
恋猫の喧嘩のはげし夜もすがら 山田敏
のどかさや我のあくびの猫にまで 山田敏
日当れるなぞへ堅香子一面に 宮田望月
ここ尾州雪の御嶽遠拝み 宮田望月
猿山ののどかボス以下みな眠げ 小森葆子
普段着で出社IT新社員 野村親信
ぴんと立つズボンの折り目新社員 鈴木康允
金ぴかの社章を胸に新社員 鈴木康允
教会のお昼を告げる鐘のどか 鈴の木正紘
居酒屋を出でて仰げる星朧 宮崎勉
春星や静かにジャズの聞こえ来る 大田武
のどけしや親亀の背に子亀乗せ 本多悠天
長閑なる散歩日和や万歩計 市川毅
のどけしや釣り糸垂るる爺と孫 山崎圭子
寝そべれる犀は岩とも園長閑 山崎圭子
ぴかぴかの吊り下げ名札新社員 山崎圭子
チェーンソー音長閑なり谷戸の奥 鈴木六花
挨拶のひときわ高き新社員 鈴木六花
終バスを見送り仰ぐ春の星 鈴木寛
義士の墓目指せるごとく花吹雪く 中島彩
吾が窓に春星一つ名を知らず 新井康夫
集まりて帯となりゆく花筏 新井康夫
乙女座のスピカも滲む春の宵 杉原洋馬
福寿草辺りの光独り占め 杉原洋馬
今しばしそぞろ歩かむ春の星 深谷美智子
2018年1月(兼題:「春待つ・春近し」「北風・木枯」「七種」)
<特選> 3句  
春近し天地返しの土香る 鈴木康允
海境(うなさか)に光芒一閃初日出づ 宮崎勉
婦人服売り場明るく春近し 本多悠天
<その他の入選> 19句  
朝湯浴び四体を清め年新た 山田敏
わが庭の一草足しぬ七日粥 小森葆子
春を待つ心は同じ野も山も 小森葆子
北風は高空を突き進むべし 宮田望月
背の日差し何とはなしに春隣 鈴木六花
北風にペダル漕ぐ足縺れけり 市川毅
朱の膳に七草粥の香り立つ 宮崎勉
北風吹くや電柱太き北の町 野村親信
朝採りの菘(すずな)蘿蔔(すずしろ)粥仕立て 鈴木康允
北風を背なにひたすら鍬を打つ 鈴木康允
伊豆の海(み)に雲の沸き立ち春近し 新井康夫
北風に背筋伸ばして歩みけり 鈴の木正紘
春を待つ天地返しの山畑 鈴の木正紘
和菓子屋の品書新た春近し 深谷美智子
ショウウインドのパステルカラー春隣 山崎圭子
遠富士のひときは白く寒募る 中島彩
寒風に力士幟の暴れをり 鈴木寛
病臥してひときは眩し雪の庭 杉原洋馬
頂きを先づは見据ゑてスキー履く 大田武
2017年11月(兼題「冬の海」「毛糸編む」「水鳥」)
<特選> 3句  
毛糸編む心遥かに遊ばせて 深谷美智子
老妻はながら族なり毛糸編む 市川毅
包丁を研ぎに出したり暮れ初め 杉原洋馬
<その他の入選> 18句  
池向う真赤に燃ゆる紅葉かな 山田敏
懐かしや落葉を焚けるこの匂ひ 深谷美智子
風紋を崩して歩く冬の浜 深谷美智子
水脈引いて群れ離れ行く鴨一羽 深谷美智子
座礁船いまだそのまま冬の海 野村親信
流行り糸随所にマフラー編みにけり 宮田望月
ウイルスの騒がれてゐて水鳥来 宮田望月
忙中閑あればひたすら毛糸編む 小森葆子
能登の冬礁に散れる波の花 宮崎勉
波追うて走る千鳥の忍者めく 本多悠天
親不知越すや荒磯の浪の華 鈴木康允
水鳥のぐんぐんと水脈曳きゆける 鈴木寛
見放くるは遠流の島や冬の海 山崎圭子
百選の潟とて万の浮寝鳥 山崎圭子
漁火のポツンポツンと冬の海 鈴木六花
毛糸編む母を偲びつ毛糸編む 中島彩
落葉踏みつつ読み返す御籤かな 新井康夫
毛糸編む母陽だまりの中に居り 大田武
2017年9月(兼題:「月」「夜なべ」「小鳥」)
<特選> 3句  
名月や吾も影引くもののうち 大田武
終電で帰る子待てる夜なべかな 深谷美智子
投函を遠回りして月の道 山崎圭子
<その他の入選> 24句  
鳴き尽くし天を仰ぎて蝉逝けり 山田敏
川の底までも映せる月明り 野村親信
オアシスの新宿御苑小鳥来る 野村親信
露座仏の螺髪を照らす今日の月 本多悠天
わが庭に今日も番の小鳥来る 本多悠天
子の作る月見団子の丸からず 小森葆子
早世の詩人の館小鳥来る 深谷美智子
夕空の黒き一団椋鳥渡る 深谷美智子
水の秋運河に映る蔵の町 宮崎勉
小鳥来る古木の多き孔子廟 宮崎勉
鳥渡る旅も果てなる街の上 鈴木康允
鍬打つてをれば小鳥の群れ来たり 鈴木康允
ラヂオより浪曲ながる夜なべかな 鈴木寛
庭に来て呉るる小鳥の名を知らず 新井康夫
絵筆擱き初めて気づく虫の声 新井康夫
仲間来て何処ともなく小鳥去る 市川毅
奈良ホテル鹿の声聞く月明り 鈴木六花
月見豆添へて一献かたむけぬ 鈴木六花
朝戸繰るまだしきりなる虫の声 杉原洋馬
案山子かと目凝らしおれば動きけり 中島彩
蕎麦の花微笑みませる道祖神 中島彩
体操着子の名を縫へる夜なべかな 大田武
孤高なる記念碑小鳥来てをりぬ 鈴の木正紘
組紐を打つ音響く夜なべかな 宮田望月
2017年7月(兼題:「短夜」「花火」「蛍」)
<特選> 3句  
押しのけて押しのけ花火次々と 鈴木寛
蛍火や流人の墓は石ひとつ 宮崎勉
遠花火音の駆け来る田舎道 市川毅
<その他の入選> 25句  
尺玉の花火に揺るる屋形船 山田敏
漆黒の闇にほつほつ蛍かな 山田敏
明易やカーテン薄き寝台車 小森葆子
明易や遠くニハトリ刻を告ぐ 小森葆子
囲ふ手の指間を漏るる蛍の火 本多悠天
短夜や夢の続きをなほ見たく 本多悠天
城跡の蛍に哀史思ひけり 宮田望月
短夜の夢の続きの有りや無し 市川毅
火柱の手筒花火を抱く二十歳 鈴木康允
旅先の枕なじめず明け易し 宮崎勉
明易の船出せはしき漁港かな 宮崎勉
轟音のあとのしじまや大花火 深谷美智子
鉢提げて朝顔市をなほ去らず 深谷美智子
人偲ぶ蛍の宵となりにけり 鈴木六花
心太微かに海の香りかな 杉原洋馬
渇水のニュース水まき遠慮がち 杉原洋馬
山間の花火遅れて谺する 野村親信
何もせぬこと許さるる酷暑かな 鈴の木正紘
平家よし源氏なほよし蛍狩り 山崎圭子
水の上蛍火虚実紛らはし 山崎圭子
掌の蛍生命線を照らしもす 山崎圭子
出ると聞く蛍を見たく宵散歩 新井康夫
水面にも百花繚乱大花火 中島彩
蛍火や魔術師のごとここかしこ 中島彩
濡れ猫と軒に夕立去るを待つ 大田武
2017年5月(兼題:「梅雨・入梅」「山開・海開」「目高」)
<特選> 3句  
炬火の帯うねりなだるる山開 野村親信
梓川とて梅雨濁り免れず 山崎圭子
麦秋の丘のチャペルへ径つづく 宮崎勉
<その他の入選> 26句  
銀座並み混み合ふ富士の山開 山田敏
雨の日はいよよ鮮やか濃紫陽花 山田敏
駒を打つ音に湿りや梅雨に入る 野村親信
少年は逃ぐる目高の先掬ふ 野村親信
祝砲の汽笛響ける海開き 小森葆子
山開き天狗と握手したりけり 小森葆子
見慣れゐし中州消えをり梅雨の川 本多悠天
かざす手に目高のさつと散りにけり 本多悠天
我が影にパッと散りたる目高かな 市川毅
行く手なる木の間木の間の風光る 市川毅
棚の藤揺れ止み丈のほぼ揃ふ 宮崎勉
剪るも惜し散らすも惜しき牡丹かな 宮崎勉
山門を額縁として青楓 宮田望月
褌の子らも参列海開き 鈴木康允
ぐい呑みに酌めるは地酒初鰹 鈴木康允
夜明け待つ人々あまた富士開く 新井康夫
ペットショップ色様々の目高かな 新井康夫
新聞を繰る手ごたへや梅雨に入る 鈴木寛
気温差に迷ふ旅の荷梅雨入前 鈴の木正紘
救命士たちも祓はれ海開き 大田武
黒々とデゴイチ濡るる男梅雨 大田武
海開き祝ひ帆船沖に早や 中島彩
水底の影に目高を捉へけり 山崎圭子
梅雨深し庭木の青の極まれり 鈴木六花
濯ぎもの竿にはためく梅雨晴間 深谷美智子
モビールの船ゆらゆらと夏館 杉原洋馬
2017年3月(兼題:「春風」「遠足」「木の芽・草の芽」)
<特選> 3句  
遠足の今日何度目の点呼かな 野村親信
散髪を終へし襟足春の風 鈴木康允
大空を占領したる辛夷かな 中島彩
<その他の入選> 24句  
遠足の弾ける声やお昼時 i市川毅
名は知らぬ草の芽なれど健気かな 市川毅
ゆつたりと春風に乗る飛行船 山田敏
みどり子の公園デビュー春の風 宮田望月
遠足の一団ホームにあふれさう 深谷美智子
遠足子降りし車両の静けさよ 小森葆子
雑木林色それぞれに芽吹きけり 小森葆子
木の芽風鍬幾たびも振りかぶる 鈴木康允
春風や頬のゆたかな飛鳥仏 宮崎勉
雪洞にいよいよ白き雛の顔 宮崎勉
遠足の赤白黄の帽子行く 本多悠天
競ふかにものみな芽吹く自然園 本多悠天
花の絵を名札としたる芽芍薬 山崎圭子
春風の少女のうなゐ髪を梳く 山崎圭子
春一番二番の後は戻り寒 杉原洋馬
それぞれの色それぞれの木の芽吹く 鈴木六花
春光に微笑みおはす磨崖仏 中島彩
オカリナの調べきこゆる春の風 鈴木寛
朽ちかけの一本桜も花盛り 新井康夫
主なき家にも桜咲きにけり 新井康夫
春風に自づと歩幅広ごれり 鈴の木正紘
遠足の声の膨らむ無人駅 鈴の木正紘
春風や大願成就絵馬鳴らす 大田武
遠足子青信号に手を挙げて 野村親信
2017年1月(兼題:「氷」「着ぶくれ」「冬眠」)
<特選> 3句  
鶏旦や一村いまだ靄の中 宮崎勉
今朝もまだ蕾のままの冬薔薇 鈴木六花
ぴしぴしと湖氷る夜となりぬ 野村親信
<その他の入選> 21句  
凍りつく華厳の滝のなほしぶく 山田敏
冬眠のごとく臥せゐる日数かな 鈴木康允
着ぶくれの背中に見ゆる老いの翳 鈴木康允
今日ひと日家居と決めてちやんちやんこ 小森葆子
四囲の音まつたく途絶え滝氷る 小森葆子
池の水抜かれ水鳥隔離さる 宮田望月
譲られし席憚りぬ着脹れて 山崎圭子
さなくとも背中の丸く着脹るる 山崎圭子
浮きゐたる葉を閉ぢ込めて氷りけり 深谷美智子
着膨れの子を抱く母も着膨れて 深谷美智子
芽キャベツの芽の犇めける収穫時 杉原洋馬
鑿一つ氷に命与へけり 市川毅
冬眠であれ今生の別れかな 市川毅
着膨れのポケット探る券売所 大田武
日に溶けていよよ鋭き氷柱かな 大田武
着膨れて二人座席を一人占め 鈴の木正紘
小石まだ氷の上に今朝のまま 鈴木寛
マトリョーシカめくよ母子の着ぶくれて 鈴木寛
手水鉢柄杓と共に氷りけり 新井康夫
着ぶくれの吾を睨める不動かな 本多悠天
着ぶくれて垣間見もする水行場 本多悠天
2016年11月(兼題:「小春」「年の市」「落葉」)
<特選> 3句  
黄落の道を真つ直ぐ美術館 宮崎勉
木を切れば匂ひ立つなり冬はじめ 深谷美智子
自動ドア開くや落葉を招き入れ 大田武
<その他の入選> 18句  
くるぶしを隠せるほどの落葉踏む 宮田望月
群れ遊ぶ小春日和の雀かな 鈴木康允
メモを手に右往左往や年の市 市川毅
踏み行けば足裏にやさし落葉道 小森葆子
メモ片手行きつ戻りつ年の市 小森葆子
一人客問はず語りのおでん酒 本多悠天
ボール追ふ犬を子の追ふ園小春 深谷美智子
宮参り晴着の孫に紅葉舞ふ 新井康夫
せかせかと皆せはしげや年の市 新井康夫
呼込みの一際高し年の市 鈴木六花
口上に魚売り切る年の市 鈴の木正紘
ロダン像動き出しさう小春かな 野村親信
メモのもの買ひ忘れもす年の市 野村親信
小春日のお手玉遊び縁先に 山崎圭子
西陣の機音洩るる路地小春 山崎圭子
烏瓜荒野にひとつ火を灯す 中島彩
味見するだけも多々有り年の市 鈴木寛
風強し掃いても掃いても落葉かな 山田敏
2016年9月(兼題:「秋深し」「稲架」「柿」)
<特選> 3句  
踏ん張らす角度のありて稲架を組む 山崎圭子
妻放り夫が掛けゆく稲架(いなか)かな 小森葆子
二人してなに言ふでなく月見かな 鈴木六花
<その他の入選> 21句  
鳥のため梢に残す柿二つ 山田敏
枝の柿そのまま子規に供へけり 本多悠天
凭れ合ふままに枯れゐる思ひ草 本多悠天
ふるさとの景にさも似て稲架並ぶ 本多悠天
故郷はどこの家にも柿実る 小森葆子
音符めく丈の揃はぬ吊るし柿 小森葆子
太き木を武骨に組みて木曽の稲架 野村親信
一幅の名筆を前秋深し 市川毅
ふるさとの話の尽きず柿をむく 鈴木六花
降り立ちぬ花野の中の無人駅 宮崎勉
信濃路の処々に明るき秋桜 宮崎勉
出水引く芥まみれの簗簀かな 山崎圭子
山間や田毎に小さき稲架組まれ 鈴木康允
廃屋の井戸端熟柿潰れ落ち 深谷美智子
竿先に柿挟まんとのけぞれる 深谷美智子
一語のみ交はせる別れ秋深む 鈴の木正紘
蝉の如あつけらかんと逝きたかり 杉原洋馬
ゲレンデのリフトにまでも稲を干す 鈴木寛
いじめつ子やり過ごしもす稲架のかげ 宮田望月
森閑と谷戸の煙や秋深し 新井康夫
合掌家屋根にそよげるススキの穂 中島彩
2016年7月(兼題:「灼く」「滝」「サイダー・ラムネ」)
<特選> 3句  
供華のなきまま義勇士の墓灼くる 小森葆子
炎天に踏み出す一歩深呼吸 宮崎勉
奔放にして整然と滝落ちる 鈴木寛
<その他の入選> 19句  
滝に来て上衣一枚羽織りけり 山田敏
灼け浜を爪先立ちに水辺へと 小森葆子
平らかな更地灼けゐてただ白し 宮田望月
切れ切れの片蔭拾ひ拾ひ行く 宮崎勉
耳鳴りの消え失せてをり蝉時雨 本多悠天
まづ触れて見る鉄棒の灼け具合 本多悠天
灼け砂の浜を韋駄天走りかな 市川毅
角度決め一気飲み干すラムネかな 野村親信
一歩づつ手摺頼りの滝見かな 鈴の木正紘
全容の見ゆる富士山梅雨明くる 中島彩
ゴルフかと問はれもすなる日焼け顔 大田武
向日葵の人立つごとく町工場 大田武
水澄し交尾のままに潜りけり 杉原洋馬
滑り台灼けゐて子供見当たらず 深谷美智子
ラムネ玉昭和は遠くなりにけり 深谷美智子
滝しぶきマイナスイオン存分に 山崎圭子
バリアフリー手摺灼けゐて掴まれず 山崎圭子
雨上りまた一斉に蝉の声 新井康夫
ラムネ飲む二度も三度も玉詰まる 鈴木康允
2016年5月(兼題:「母の日・父の日」「祭」「新緑・緑」)
<特選> 3句  
母の日や祖母母娘皆強し 杉原洋馬
父の日を以て酒量を控へけり 鈴の木正紘
荒神輿みんな写楽の顔となる 野村親信
<その他の入選> 28句  
通学の元気な子らや柿若葉 山田敏
母の日やコック張り切る十才児 宮田望月
古民家の竈(かまど)のけぶる青葉雨 宮崎勉
小糠雨却ってよろし神輿舁(か)く 小森葆子
押し押され三社祭の人混みに 小森葆子
笛吹ける娘いなせな祭髪 小森葆子
母の日や母とし悔いのなくもなし 小森葆子
鳳凰の飛び立ちさうや荒神輿 本多悠天
神輿舁くもろ肌脱げる碧眼も 本多悠天
鳰の子に親また潜り見せもする 本多悠天
祭笛半纏の字も踊りけり 市川毅
初陣の乗馬手間取る賀茂祭 鈴の木正紘
祭足袋腓に力漲れり 野村親信
江戸つ子の血騒ぐ三社祭かな 野村親信
孫呼んで手を引かせたる祭かな 鈴木六花
遥より祭太鼓の聞え来る 鈴木六花
晒巻き神輿を担ぐ男伊達 鈴木康允
声高く揉みに揉み合ふ神輿かな 深谷美智子
葉の影に葉と同じ色実梅生る 深谷美智子
母の日の似顔絵並ぶアーケード 大田武
奥入瀬の新緑の底水走る 大田武
花筏今し運河を遡る 新井康夫
産湯の井葵の紋に緑さす 山崎圭子
青葉潮涯は水天一碧に 山崎圭子
新緑に包まれ笑める磨崖仏 中島彩
濃く淡くみどり織りなす若葉山 鈴木寛
耳奥に今も祭の笛太鼓 鈴木寛
藤棚に早や先客の熊ん蜂 杉原洋馬
2016年3月(兼題:「日永、永き日」「春泥」「木の芽」)
<特選> 3句  
木の芽どき木々のつぶやき聞こえさう 小森葆子
頬白のこの鳴き声は恋ならむ 本多悠天
時計屋の時刻ばらばら長閑なり 深谷美智子
<その他の入選> 25句  
大空へ背伸びするかの木の芽かな 市川毅
桜餅食べし指先なほ匂ふ 宮崎勉
啓蟄や歩幅大きくウオーキング 宮崎勉
けんけんの黄色のブーツ春の泥 鈴木六花
春泥に道譲り合ふ散歩かな 小森葆子
春泥にタイヤの模様造成地 新井康夫
お腹まで春泥まみれ散歩犬 本多悠天
草野球まだ聞えゐて日の永し 本多悠天
靴底の春泥草にぬぐひけり 深谷美智子
職離れ猫を相手の日永かな 鈴木寛
露天ぶろ肩にほつほつ春の雨 鈴木寛
ぶら下がり春泥跳べる幼児かな 鈴の木正紘
春泥の靴はばからず鄙の駅 大田武
老木の幹に吹く芽の初々し 大田武
白木蓮(はくれん)の咲き漲れる今朝の空 鈴木康允
ほやの毬抱へゐる木も芽を吹ける 山崎圭子
パパの背に眠りて家路日永し 山崎圭子
隣合ふ山茱萸ミモザ黄を異に 杉原洋馬
アネモネに赤青ピンク黄は見ず 杉原洋馬
羽根開く孔雀を待てる日永かな 宮田望月
名ある木も名のなき木々も芽吹きけり 宮田望月
春泥の靴駅頭に履き替ふる 野村親信
春泥の靴脱ぎ北の旅終はる 野村親信
通るたび木の芽ふくらみ増してをり 中島彩
この桜待たずに行かれ給ひけり 中島彩
2016年1月(兼題:「短日、日短か」「炬燵」「初夢」)
<特選> 3句  
初夢のなほその続き見てみたく 小森葆子
畝高く葱へ土寄す鍬初め 鈴木康允
爺と孫真剣勝負カルタ取り 杉原洋馬
<その他の入選> 23句  
初夢のタイムスリップ五十年 市川毅
丸き背のいよいよ丸く炬燵守る 小森葆子
うたた寝はこの世の浄土春炬燵 小森葆子
やり残したる庭仕事日短か 本多悠天
短日や仕立てきれずに針片す 宮田望月
晩酌の後のうたたね置炬燵 鈴木康允
短日や子を呼ぶ声の甲高く 鈴木康允
竿の物はやも取込む日短 鈴木寛
麻雀のそのままごろ寝掘炬燵つ 鈴の木正紘
干し物のねぢれしままに竿に凍つ 鈴の木正紘
一献を傾けもして炬燵舟 中島彩
初夢は笑顔のままの父と母 中島彩
小気味良き音に踏まるる霜柱 中島彩
二つ三つ灯り初めたる雪の里 鈴木六花
初夢の曖昧模糊の寝覚めかな 山崎圭子
日時計の律儀短日刻みゆく 山崎圭子
ベランダの梅の小鉢も花芽吹く 杉原洋馬
病床のガラス越しなる雪眩し 杉原洋馬
短日や広げし仕事片付かず 深谷美智子
枯芝にまみれてボール遊びかな 深谷美智子
独り占めしてうたた寝の炬燵かな 大田武
短日や巡り残せる古都の寺 野村親信
炬燵の火熾す船頭川下り 野村親信
2015年11月(兼題:「北風」「柚子湯」「鷹」)
<特選> 3句  
さきがけはどの鷹ならん鷹柱 野村親信
「柚子湯にと」柚子添へらるる回覧板 小森葆子
疎まれて終へる余生か冬の蠅 鈴の木正紘
<その他の入選> 21句  
伊良湖岬天に点点鷹渡る 本多悠天
北風に歩幅を広く挑みけり 市川毅
一日の区切り柚子湯に如くは無し 市川毅
野仏の膝に散り積む紅葉かな 宮崎勉
長生き湯とや大量の柚子の浮く 鈴木康允
北風の空富士山を近くする 鈴木康允
人参を引く一瞬のときめきて 鈴木康允
北風や筑波嶺遠く位置変へず 大田武
帽押さへ北風の中バスを待つ 新井康夫
柚子湯入るこの健康の有難さ 新井康夫
北風にふと唄ひだす「寒い朝」 鈴木寛
ほとびたる柚子を柚子湯になほ搾る 鈴木寛
はんなりと小春日和の富士の山 中島彩
湯上がりの赤子にほのと柚の香かな 山崎圭子
湯浴みする肩にやさしく柚触るる 山崎圭子
北風の中を小走り小買物 深谷美智子
木枯しの吹き募る夜の長電話 深谷美智子
なほ残る昨夜(よべ)の柚子湯の香りかな 深谷美智子
冬晴や帰る漁船の水脈太し 鈴の木正紘
掃き寄せて落葉の山を踏んでみる 杉原洋馬
原節子訃報は平成秋日和 杉原洋馬
2015年9月(兼題:「秋高し」「菊人形」「秋刀魚」)
<特選> 3句  
秋高しカウベルの音遥かより 小森葆子
どこからも視線の合はず菊人形 小森葆子
着替へさす菊師は黒子めきにけり 山崎圭子
<その他の入選> 22句  
海の色留むる秋刀魚焼かれけり 小森葆子
少し距離置きて眺むる菊人形 市川毅
天高し村の高みに開拓碑 野村親信
初日とて水たつぷりと菊人形 野村親信
天高しヒマラヤ杉の並木道 本多悠天
房総の山並低く天高し 宮崎勉
遠き日の七輪の味秋刀魚焼く 鈴木康允
はらわたも夫の好みや秋刀魚焼く 鈴木六花
わが庭にしばし遊べる秋の蝶 鈴木六花
天高し天守に跳ぬる金の鯱 山崎圭子
宙馳する忍び人形菊を着ず 山崎圭子
広小路ぬけて湯島の菊人形 鈴木寛
シーバスの滑り行く海秋高し 新井康夫
信濃路や処々に明るき秋桜 中島彩
安曇野は今を盛りの蕎麦の花 中島彩
爽やかや包丁式の白たすき 宮田望月
雲梯を登り切ったる秋高し 深谷美智子
献立を考えあぐね秋刀魚焼く 深谷美智子
台風に飛びさう雨戸抑へけり 杉原洋馬
皿の上綺麗に秋刀魚食ぶる妻 大田武
殿のゴールに拍手天高し 鈴の木正紘
梵鐘の一打尾を引く天高し 鈴の木正紘
2015年7月(兼題:「炎天」「浴衣」「金魚」)
<特選> 3句  
一呼吸ありてトンボの羽根下げぬ 杉原洋馬
海見ゆる窓辺に置かる金魚玉 本多悠天
おはようと日々指弾く金魚鉢 鈴木寛
<その他の入選> 29句  
夢二の絵めける浴衣の娘かな 小森葆子
膝小僧ならべて金魚掬ひかな 小森葆子
浴衣縫ふ祖母の使へる鯨尺 小森葆子
金魚田を渡り来る風水匂ふ 本多悠天
石鹸の匂ひのほのか浴衣人 本多悠天
炎昼や盛んに動く牛の舌 本多悠天
百葉箱壊れしままや炎天下 野村親信
炎天をものとせずに球児たち 野村親信
路地裏に残る一軒金魚売る 市川毅
交配の金魚の系譜おもしろく 市川毅
炎天下攻めに入りたる登り窯 宮崎勉
掬ひ来し金魚つぎつぎ死ににけり 鈴木康充
挨拶の旧知のごとく宿浴衣 鈴木康充
団扇手にいつの間にやら寝入りけり 鈴木康充
フラメンコめける金魚のターンかな 大田武
不意に向き変へて泳げる金魚かな 深谷美智子
化粧塩まぶれや鮎の姿焼き 深谷美智子
浴衣売る下駄帯小物まで揃へ 山崎圭子
ちゃん呼びも旧姓呼びも宿浴衣 山崎圭子
一尾づつ糶らるる金魚珍種とか 山崎圭子
乗り遅れ次のバス待つ炎天下 鈴の木正紘
尾を振れるほどは進めず金魚の子 鈴の木正紘
赤信号みな汗を拭く交差点 鈴木寛
ひらひらと金魚尾鰭を自慢げに 鈴木六花
宿浴衣古希同窓の集ひかな 鈴木六花
電線の垂れ下がりゐる猛暑かな 新井康夫
浴衣脱ぎ土俵の稽古相撲取 宮田望月
朝の風涼し散歩の距離のばす 中島彩
幼子のいよいよおしやま浴衣着て 中島彩
2015年5月(兼題:「紫陽花」「梅雨」(「入梅」「梅雨寒」「梅雨明」等)「更衣」)
<特選> 3句  
新しきダイヤの車掌更衣 野村親信
ダイエット成果少しく更衣 小森葆子
母の日にもてなす男料理かな 鈴の木正紘
<その他の入選> 20句  
紫陽花のほのかに藍をつけ初めり 本多悠天
祖母律儀朔日を待ち衣更ふ 小森葆子
猫無聊吾もまた無聊梅雨ながし 小森葆子
さみだるる彫り幽かなる磨崖仏 山崎圭子
老ゆるともいつも身奇麗更衣 市川毅
断捨離といふ言葉あり更衣 鈴木康允
植ゑるものみな植ゑ終へて四月尽 鈴木康允
畳み皺なかなか消えず更衣 深谷美智子
着る予定なきも出し置く更衣 深谷美智子
吊革の白き二の腕更衣 鈴の木正紘
この頃はクールビズとや更衣 鈴木寛
黄菖蒲の花の縁取る阿字が池 新井康夫
ふところに一宇の御堂山笑ふ 新井康夫
紫陽花に降る雨紫陽花色となる 中島彩
朝ごとにゴーヤの棚に蔓からむ 宮田望月
ポケットの減りて戸惑ふ更衣 大田武
更衣きのふと同じ腕時計 大田武
植木屋と世間話や衣更へ 鈴木六花
紫陽花の水色淡き恋に似て 杉原洋馬
教室は白一色や更衣 野村親信
2015年3月(兼題:「啓蟄」「春灯」)
<特選> 3句  
穴出づる蟻に入る蟻ぶつからず 本多悠天
木漏れ日の輪に浮かびたる落椿 i市川毅
天敵の多き世地虫出でにけり 小森葆子
<その他の入選> 24句  
春の灯の暗さも宿坊らしきかな 小森葆子
白木蓮天に奉ぐる燭めけり 宮田望月
蛇の出てつまづくゴルフショットかな 宮崎勉
地虫出づ動きせはしき鳩の首 鈴木寛
野仏の陽だまり早も福寿草 鈴木康允
新品種取り寄せ畑を耕せり 鈴木康允
春灯を引き寄せ稿に向かひけり 鈴木六花
啓蟄や旅立ちの靴新しく 鈴木六花
啓蟄や吾を待つなる庭仕事 山崎圭子
亡父(ちち)の手の母の遺句集春燈下 山崎圭子
朦々の湯けむり包む春ともし 大田武
傍らの梅の香れる供養塔 新井康夫
長閑なり句作に耽る今日ひと日 新井康夫
地に落つもなほ凛とし紅椿 杉原洋馬
啓蟄の野良に二三の人の影 市川毅
啓蟄や歩幅で測る畝の丈 鈴の木正紘
出欠を迷ふ返信鳥雲に 鈴の木正紘
咲き急ぎ且つ散り急ぐ桜かな 中島彩
手に乗せて啓蟄の土ほぐしけり 深谷美智子
受験子の絵馬絵馬掛けにあふれをり 深谷美智子
穴出でて翅ある虫のまだ飛ばず 本多悠天
信濃路やどちらを向くも山笑ふ 本多悠天
雨上り啓蟄の土匂ひ立つ 野村親信
蔀戸を上ぐる本陣春灯 野村親信
2015年1月(兼題:「新年」「おでん」「雪」)
<特選> 3句  
念入りに包丁研ぐも年用意 鈴木康允
おでん煮て妻は3日の留守を告ぐ 小森葆子
物干しに一間とられて雪に住む 山崎圭子
<その他の入選> 13句  
どこまでも雪のシベリア飛機の窓 小森葆子
留守頼む夫に好物おでん鍋 鈴木六花
挨拶は今年限りといふ賀状 深谷美智子
正月や聞かざるものに羽子の音 宮崎勉
落し物らしきが載れる雪だるま 本多悠天
すつぽりと雪に包まる峡の村 鈴の木正紘
日本に神仏ありて初詣 野村親信
とりどりのおでんの種に箸迷ふ 市川毅
リビングの硝子戸ごしに色鳥来 杉原洋馬
降る雪や父のおはさば白寿ほど 鈴木寛
まはり道足裏(あうら)に踏める霜柱 中島彩
正月や笹竹しなる大漁旗 大田武
アシカの背いよよ輝き春近し 宮田望月
2014年11月(兼題:「枯野」及び「クリスマス」)
<特選> 3句  
園児みな天使となりぬクリスマス 鈴木六花
初時雨喪中葉書の来初(そ)めけり 杉原洋馬
枯野原忘れ物めく道標 鈴の木正紘
<その他の入選> 25句  
神子を抱く聖母の白さクリスマス 本多悠天
踏み入れて枯野こんなに広きとは 本多悠天
おしろいに口紅ちよつと七五三 宮崎勉
法要の一日終はり石蕗の花 宮崎勉
枯野原ベンチひとつの無人駅 鈴木康允
濃く淡く枯野の色のさまざまに 鈴木六花
雨に濡れいよよ蕭々枯野道 鈴木六花
枯野行く列車廃線近きとか 小森葆子
あかあかと枯野の果てに日の入りぬ 小森葆子
微笑める石仏並ぶ枯野径 鈴の木正紘
大枯野落暉に今ぞ染まるかな 山崎圭子
崩れ簗それらしき杭遺るのみ 山崎圭子
峠より大河の見ゆる枯野かな 満江信之
はしなくも石投げてみる枯野かな 鈴木寛
紅葉狩老いのハーレー列なせり 鈴木寛
唐突に富士現はるる枯野かな 中島彩
ケーキ切る手元見つめるクリスマス 新井康夫
煙立つ谷戸の一寺は落葉焚く 新井康夫
ひよつとして枯野のここも遺跡かな 市川毅
冠に星をかざして聖夜劇 深谷美智子
江戸前と白きのれんや冬に入る 宮田望月
タクシーの一台きりや枯野駅 大田武
空薬莢散らばりゐたる枯野道 大田武
舞台から母探しをる聖夜劇 野村親信
電飾の坩堝聖夜の摩天楼 野村親信
2014年9月(兼題:「萩」及び「夜長」)
<特選> 3句  
妻と我趣味それぞれの夜長かな 市川毅
灯る窓ひとつひとつの夜長かな 大田武
蟷螂(かまきり)の鎌の構へに隙見せず 杉原洋馬
<その他の入選> 26句  
胸一杯抱へこみては萩括る 本多悠天
はかどらぬ写真の整理夜の長し 本多悠天
狭き路更に狭むる枝垂れ萩 本多悠天
寺男萩の塵掃き萩自慢 野村親信
奔放に四方八方萩しだれ 野村親信
みちのくの民話に旅の夜長更け 野村親信
佳き言葉出会へる詩集灯親し 野村親信
石畳雨に零るる萩の花 宮崎勉
日日草二人暮しのつつましく 宮崎勉
萩揺るるシャターチャンス待ちにけり 小森葆子
ラジオ聴きながらの読書夜の長く 鈴の木正紘
太梁の貫ける土間夏炉焚く 鈴の木正紘
山門を抜けくる風に萩乱る 大田武
風にまた人にこぼるる寺の萩 山崎圭子
柚子坊の餌の葉色に太りけり 山崎圭子
薄の穂解きしばかりの滑らかに 杉原洋馬
切通し左右より萩のしだれけり 鈴木康允
石段の萩を掻き分け寺に入る 新井康夫
長き夜や酒酌み交はす人あらば 新井康夫
紅白の萩のアーチや百花園 中島彩
唐突に香りて気付く金木犀 中島彩
夕風に萩の白花際立ちぬ 鈴木寛
眠れねばそれもよしとす夜長かな 鈴木寛
咲き残る萩の乱るる白毫寺 深谷美智子
こまごまとして慎ましき萩の花 鈴木六花
萩こぼることに赤きはいとほしく 宮田望月
2014年9月(兼題:「萩」及び「夜長」)
<特選> 3句  
妻と我趣味それぞれの夜長かな 市川毅
灯る窓ひとつひとつの夜長かな 大田武
蟷螂(かまきり)の鎌の構へに隙見せず 杉原洋馬
<その他の入選> 26句  
胸一杯抱へこみては萩括る 本多悠天
はかどらぬ写真の整理夜の長し 本多悠天
狭き路更に狭むる枝垂れ萩 本多悠天
寺男萩の塵掃き萩自慢 野村親信
奔放に四方八方萩しだれ 野村親信
みちのくの民話に旅の夜長更け 野村親信
佳き言葉出会へる詩集灯親し 野村親信
石畳雨に零るる萩の花 宮崎勉
日日草二人暮しのつつましく 宮崎勉
萩揺るるシャターチャンス待ちにけり 小森葆子
ラジオ聴きながらの読書夜の長く 鈴の木正紘
太梁の貫ける土間夏炉焚く 鈴の木正紘
山門を抜けくる風に萩乱る 大田武
風にまた人にこぼるる寺の萩 山崎圭子
柚子坊の餌の葉色に太りけり 山崎圭子
薄の穂解きしばかりの滑らかに 杉原洋馬
切通し左右より萩のしだれけり 鈴木康允
石段の萩を掻き分け寺に入る 新井康夫
長き夜や酒酌み交はす人あらば 新井康夫
紅白の萩のアーチや百花園 中島彩
唐突に香りて気付く金木犀 中島彩
夕風に萩の白花際立ちぬ 鈴木寛
眠れねばそれもよしとす夜長かな 鈴木寛
咲き残る萩の乱るる白毫寺 深谷美智子
こまごまとして慎ましき萩の花 鈴木六花
萩こぼることに赤きはいとほしく 宮田望月
2014年7月(兼題:「サングラス」及び「水遊び」)
<特選> 3句  
サングラス掛ければ別の人となる 宮崎勉
サングラスかけて歩幅の広がりぬ 小森葆子
気づかれぬことも寂しやサングラス 小森葆子
<その他の入選> 18句  
サングラスはずし拝礼御神前 鈴の木正紘
サングラス奥に微笑む目の透けて 大田武
サングラス取れば親しみやすき人 深谷美智子
水鉄砲わざとうたれてやりにけり 本多悠天
口元を際立たせゐるサングラス 本多悠天
サングラス別れの言葉さりげなく 野村親信
とりいれの済みしになほも実梅落つ 杉原洋馬
ばつさりと髪を短く夏来る 鈴木康允
松手入れ塀の外まで香りけり 満江信之
本心は何処にありやサングラス 市川毅
飛沫上げもんどり打てるカヌーかな 小森葆子
背の少し伸びたるここちサングラス 鈴木寛
サングラス掛け出たもののすぐ外す 新井康夫
よじ登るまま空蝉の止まりをり 中島彩
今もある柾目の盥水遊び 山崎圭子
某女史に似ると言はれてサングラス 山崎圭子
立葵乗り出してをり隣塀 鈴木六花
逆光に葉の透けゴーヤ棚涼し 宮田望月
2014年5月(兼題:「新茶」及び「草笛」)
<特選> 3句  
草笛の節らしきものついてきぬ 本多悠天
草笛の突と鳴りしがそれつきり 山崎圭子
しづくまで平等につぐ新茶かな 本多悠天
<その他の入選> 27句  
茶柱の立つがうれしき新茶かな 野村親信
草笛の名手あれこれ吹いて見せ 野村親信
新茶汲む母好まれし九谷焼 鈴木六花
茶切り節聞かせもすなる新茶祭 鈴木六花
まだ折り目目立つ新茶の幟かな 大田武
笠智衆気取りに新茶汲みにけり 鈴木康允
切り口の襞の美し若竹煮 鈴木康允
草笛のドレミ狂ひつぱなしかな 鈴の木正紘
ゆつたりと急須を回す新茶かな 鈴の木正紘
針のごと細き手揉みの新茶かな 宮崎勉
残雪の富士真向ひに茶を摘める 宮崎勉
草笛を吹けば故郷の懐かしく 宮崎勉
先づもつて色香を賞づる新茶かな 小森葆子
山々のモザイクなせる緑かな 小森葆子
新茶売る茶葉の色なる店のれん 山崎圭子
梳きしかに畝揃ひたる茶山かな 山崎圭子
草笛や吹く息さぐりさぐりして 山崎圭子
白磁にぞ映ゆるさみどり新茶汲む 深谷美智子
おもむろに舌にころがす新茶かな 本多登代子
下校児の二人の競ふ草の笛 本多登代子
ビル陰の狭き庭にも蝶来たる 新井康夫
飲み干してなほ香り立つ新茶かな 中島彩
一仕事終へたる安堵新茶汲む 市川毅
草笛を教へる子供得意顔 鈴木寛
老鶯と我の口笛呼応せり 杉原洋馬
力漲れり皇帝ダリアの芽 杉原洋馬
新緑の尾根や意外に富士近し 満江信之
2014年3月(兼題:「燕」及び「野遊」)
<特選> 3句  
「ルリハコベ」とぞ名付けたしイヌフグリ 杉原洋馬
風光る野にいざ出でよ句材満つ 杉原洋馬
土間汚す糞も詮無し燕の巣 小森葆子
<その他の入選> 28句  
しおむすび携へもして野に遊ぶ 本多悠天
電線の燕の親子音符めく 本多悠天
燕来る庇の深き一揆寺 鈴の木正紘
野遊や寝ころぶ草の陽の匂ひ 鈴の木正紘
縄文土器出土せし野に遊びけり 宮崎勉
燕飛ぶ一直線の影を曳き 市川毅
大空に二転三転つばくらめ 鈴木康允
箱を出て眩しげにます雛かな 鈴木康允
初つばめ友への手紙ポストまで 鈴木六花
燕飛ぶその眼下には磨崖仏 中島彩
やはらかき光まとへる花菫 中島彩
病む母の細き手首や室の花 満江信之
釈迦のみは微笑おはす涅槃変 本多登代子
あらば何をか摘まむ野に遊ぶ 本多登代子
足元を今過ぎりしは燕かな 新井康夫
野遊や陽の温みある草に寝る 新井康夫
初燕なにかいいことありさうな 鈴木寛
野遊のポニーテールの揺れ通し 鈴木寛
腹這へば犬も腹這ひ野に遊ぶ 鈴木寛
敷物を要に四方(よも)の野に遊ぶ 小森葆子
おにぎり派サンドイツチ派野に遊ぶ 小森葆子
小流れに笹舟流し野に遊ぶ 山崎圭子
フォークダンスせし日懐かし野に遊ぶ 山崎圭子
土筆摘む重機の動くかたわらで 深谷美智子
戻りたる子の靴春の泥まみれ 深谷美智子
みはるかす大極殿や土筆摘む 宮田望月
野遊の帰りは父の背に眠る 野村親信
野遊や体験乗馬してみたく 野村親信
2014年1月(兼題:「賀状」及び「悴む」)
<特選> 3句  
百歳は叶はぬまでも冬至風呂 鈴木康允
鏡文字混ざるもうれし一賀状 山崎圭子
高揚がりして大凧のカルタほど 山崎圭子
<その他の入選> 28句  
一筆の添へ書き嬉し年賀状 小森葆子
恙無きことに安堵す賀状かな 小森葆子
悴む字判読難き句帳かな 小森葆子
渡し跡名残りの杭に都鳥 小森葆子
悴みてことさら風呂の熱きかな 鈴木寛
近道の路地から路地へ福詣り 鈴木寛
気迫ある馬の版画や年賀状 深谷美智子
戻り来し賀状に友の案じられ 深谷美智子
悴んで紐結ぶ手のもどかしき 深谷美智子
悴める手に駅伝の襷待つ 野村親信
悴むも反骨心の無くもなし 野村親信
賀状くる我が家の犬に医院より 宮崎勉
病室の老母を想ふ霜夜かな 満江信之
年賀状だけの縁の五十年 鈴の木正紘
今年また賀状の数の減りにけり 新井康夫
落葉焚く香り漂ふ谷戸の寺 新井康夫
これまでとこれからのこと賀状書く 鈴木六花
悴みて投ず賽銭箱を逸れ 山崎圭子
レスキューの訓練にして悴まず 本多登代子
白蛇の棲める大樟注連替ふる 本多登代子
正座して孫の御慶を受けにけり 市川毅
ひもすがら富士山を背に大根抜く 中島彩
きらきらと光が踊る春の海 中島彩
悴む手摺り合わせてはキーを打つ 杉原洋馬
逆光に雪かと見れば葦の絮 杉原洋馬
向かひ風頬の皹には障らずや 宮田望月
今エーゲ海のはずてふ年賀状 本多悠天
五人の子名前並ぶる賀状かな 本多悠天
2013年11月(兼題:「時雨」及び「大根」(「大根畑」「大根引く」「大根干す」等々))
<特選> 3句  
抜いて欲しげに大根の抜きん出る 本多登代子
樹々高き武蔵野の空鳥渡る 深谷美智子
ふりむけば今来し道の時雨をり 宮崎勉
<その他の入選> 33句  
菊坂に一葉偲ぶ時雨かな 本多悠天
畑に焚く煙まつすぐ天高し 本多悠天
瑞々し今朝干されたる大根らし 鈴木六花
古書市の売り子の走る時雨かな 鈴木六花
松手入れをりをり光る鋏かな 宮崎勉
木枯らしに向かひて後ろ振り向かず 鈴木康允
つくばひを濡らし時雨の去りにけり 満江信之
夕富士の黒く浮かびて秋深し 満江信之
雪吊りの縄投ぐる声響きけり 満江信之
時雨るるや旅の姿の翁像 山崎圭子
大文字山は日当たり御所しぐれ 山崎圭子
富士山にひつ掛くるかに大根干す 山崎圭子
畝は今歯抜けの様の大根畑 山崎圭子
白肌に刃先ためらふ大根かな 鈴の木正紘
開いてはまたすぐ閉づる時雨傘 鈴の木正紘
時雨るるやタオル頭に川原の湯 鈴木寛
大根煮る妣(はは)の年齢疾うに過ぎ 鈴木寛
湖上へと流るる早さ時雨雲 本多登代子
石蕗の花そこだけぽつと明るくて 杉原洋馬
てらてらと冬陽に映ゆる黄八丈 宮田望月
長谷寺の法螺の音包む時雨かな 中島彩
潮風のまともな処大根干す 中島彩
箸入れてくづるるほどの大根かな 深谷美智子
時雨るるも高千穂峡の旅よろし 市川毅
道端に食む都井の馬天高し 市川毅
土黒き左千夫の里に大根引く 野村親信
振分け棒撓ますほどに大根干す 野村親信
切干や安房の潮風安房の陽に 野村親信
母の味輪切り大根飴色に 小森葆子
番傘の油のにほふ時雨かな 小森葆子
立ち読みにいつしか時雨過ぎにけり 小森葆子
目を上ぐる時雨もやうの窓の外 新井康夫
風呂吹きに八丁味噌の如くはなし 新井康夫
2013年9月(兼題:「ぬくめ酒」、「水澄む」)
<特選> 3句  
今日のこと今日なし終へてぬくめ酒 鈴木六花
極秘めく固く巻かれし落とし文 小森葆子
海山の幸あり酒を温めん 野村親信
<その他の入選> 22句  
皆眠り孤高の月となりにけり 本多悠天
老い二人引越しの夜の温め酒 鈴木寛
奥入瀬の瀬音の高く水澄めり 宮崎勉
ぐいのみになみなみ注ぐるぬくめ酒 鈴の木正紘
油揚げ焼いて独りのぬくめ酒 鈴の木正紘
ひとひらの菊花浮かぶる温め酒 鈴木康允
吊り橋を初紅葉へと渡りけり 満江信之
千尋の谷底を縫ふ水澄めり 満江信之
天地の恵みの酒やあたためむ 野村親信
水底に白磁のかけら水澄める 深谷美智子
汀草みな折れ伏しぬ秋出水 深谷美智子
合掌村戸毎に引ける水澄める 山崎圭子
そぞろ寒背筋を伸ばし朝散歩 中島彩
風の盆お座りあれと軒に椅子 宮田望月
澄む水にねんごろに筆洗ひけり 市川毅
足許に葛の花屑高きより 杉原洋馬
太鼓橋上下対称水澄めり 本多登代子
行く雲を写して水の澄みにけり 本多登代子
下戸とても香りが好きや温め酒 小森葆子
病癒ゆ五臓にやさし温め酒 小森葆子
名にし負ふ宗祇水なり澄みに澄む 小森葆子
見晴かす富士と茶畑秋天下 小森葆子
2013年7月(兼題:「登山」(「登山靴」、「登山宿」、「登山小屋」、「登山帽」等登山に関するもの)及び「夕立」(ゆだち・ゆうだち、「夕立雲」、「夕立晴」等)
<特選> 3句  
尾根道の雲に消えゐる登山かな 本多悠天
登山道尻目に我はロープウエイ 山崎圭子
もつと右もつと前よと西瓜割り 鈴木寛
<その他の入選> 22句  
大夕立去りて天地の新たなり 本多悠天
畑に鍬捨て置かれあり大夕立 小森葆子
裏山へ祖母の手をとり登高す 小森葆子
登山杖拾ひし辺りにて捨つる 野村親信
倒木を跨ぎもすなる登山道 野村親信
日のぬくみ残れる日傘畳みけり 深谷美智子
夕立に追はるるごとく郵便夫 鈴の木正紘
靴の紐締め直しもす登山口 鈴の木正紘
声交はし譲り譲らる登山道 鈴の木正紘
雷鳴にクモの子散らす子供達 満江信之
竿の物取り込み敢へず夕立来る 宮崎勉
農小屋を開くるや落ち来守宮かな 鈴木康允
広重の絵の夕立や庄野宿 市川毅
木道にしばし息つく登山かな 新井康夫
馬頭尊祀れる祠登山口 山崎圭子
天下布武なる城の跡登高す 山崎圭子
打ち枝を杖にどうぞと登山口 山崎圭子
夕立来と一目散に子らかくる 鈴木六花
雷鳴や機銃掃射の如き雨 鈴木寛
涼しげに笑まひ給へる伎芸天 中島彩
山百合に下山の疲れ忘れけり 杉原洋馬
髪上げてどこか大人ぶ浴衣の子 鈴木寛
2013年5月(兼題:「更衣」、「明易し」)
<特選> 3句  
草を食む羊の親子聖五月 本多悠天
山盛りの蚕豆剥けば一握り 鈴木康允
住職の黒から黒へ更衣 鈴の木正紘
<その他の入選> 24句  
襟もとのあたりすつきり更衣 本多悠天
気付きたる昨年の染みや更衣 本多悠天
鶏鳴(けいめい)に麓の村の明易し 小森葆子
坊泊り僧の気配に明易し 小森葆子
更衣女将ひときは颯爽と 小森葆子
苔茂る水掛不動台座まで 本多登代子
明易や朝刊配るバイク音 宮崎勉
老いたれば派手目の色に更衣 宮崎勉
歴史の書今し佳境や明易し 鈴木寛
これを機に捨つるものあり更衣 鈴木寛
襟足を少し刈上げ更衣 鈴の木正紘
更衣今もブリキの衣裳缶 深谷美智子
揺れ交す虞美人草は触れ合はず 深谷美智子
ふるさとへふと帰りたし更衣 鈴木六花
母と子のペアールツクや更衣 山崎圭子
手も足も長き少女や更衣 山崎圭子
もてなしは朴の若葉のちらし寿司 宮田望月
まどろみて夢は中程明易し 新井康夫
鳥たちの声に目が覚め明易し 市川毅
浮けるかに遥かに朴の花高し 杉原洋馬
殊のほか樹冠ひしめく楠若葉 杉原洋馬
樟脳は祖母の匂ひや更衣 野村親信
様々な鳥の声して明易し 中島彩
どくだみに占居されゐる狭庭かな 中島彩
2013年3月(兼題:「風光る」、「苗札」)
<特選> 3句  
苗札の下がりてただの棒ならず 山崎圭子
露座仏の広やかな胸風光る 本多悠天
何もなき畝に苗札のみ並ぶ 鈴の木正紘
<その他の入選> 21句  
鯉跳ねて飛びちるしぶき風光る 本多悠天
苗札に園児らの絵の描かれあり 本多悠天
激戦のありし赤壁風光る 野村親信
苗札に書き添へあるは花言葉 野村親信
山盛りに椀によそへる浅蜊汁 鈴木康允
城垣の反り美しく風光る 宮崎勉
苗札の表洋名裏和名 本多登代子
遡るごとき川波風光る 本多登代子
満々と水を張る田に風光る 中島彩
苗札を挿して園児の手を合はす 市川毅
新調の子の黄帽子に風光る 市川毅
ミサの丘十字架に風光りけり 山崎圭子
札の名は違へども芽の相似たる 小森葆子
対岸に並べる風車風光る 小森葆子
パレードのバトンに風の光りけり 小森葆子
伸びきれるクレーンの首に風光る 鈴の木正紘
一歳の一歩踏み出す春の土 鈴の木正紘
陽の匂ひ風の匂ひや野に遊ぶ 深谷美智子
切れば血のほとばしるべし薔薇新芽 杉原洋馬
箱根路の登山電車に風光る 鈴木寛
肌を刺す針にも似たり寒の冷え 満江信之
2013年1月(兼題: 「山眠る」(「眠る山」)、「鮟鱇」)
<特選> 3句  
トンネルを貫通させて山眠る 本多悠天
繭玉や障子越しなる機の音 山崎圭子
吊し切りショーを見てより鮟鱇鍋 野村親信
<その他の入選> 23句  
鮟鱇の口笑ふかに見えにけり 本多悠天
初場所の櫓太鼓や大鵬逝く 本多悠天
山眠るその懐に我が生家 鈴の木正紘
まづもつて仰ぐ百段初詣 鈴の木正紘
鮟鱇の吊るされ居るも笑ふかに 小森葆子
神の鈴抱かれて鳴らす初詣 小森葆子
鏡文字混じる幼なの年賀状 小森葆子
一夜にて眠れる山の雪化粧 鈴木六花
拍手を田の神に打ち鍬始 鈴木康允
老いたりと言つてはをれず雪を掻く 鈴木寛
エレベータ開くや雛に迎へらる 鈴木寛
父母の墓ふところ深く山眠る 宮崎勉
垂涎の初版本なり読始む 本多登代子
鮟鱇の腹トロ箱を溢れさう 山崎圭子
水茎の草書ゆかしき賀状かな 深谷美智子
屠蘇うくる卒寿の母の杯小さく 深谷美智子
わらべうた辻に響かせ灯油売り 宮田望月
門口に箒片手の御慶かな 中島彩
回文もまためでたかり宝船 新井康夫
老妻は新札用意お年玉 市川毅
つややかな厚き葉のぞく雪椿 杉原洋馬
お袋の田舎便りに餅届く 満江信之
長々と裾曳く富士の眠りけり 満江信之
2012年11月(兼題: 「木の葉髪」、「短日・日短・暮早し」)
<特選> 3句  
着せ替へて香りの新た菊人形 本多悠天
木の葉髪子に従ふも親心 本多登代子
コンクリの壁がキャンバス蔦紅葉 中島彩
<その他の入選> 22句  
長き影踏み短日の帰路急ぐ 本多悠天
塒へと急げるカラス暮早し 本多登代子
捨てられぬ物に囲まれ木の葉髪 本多登代子
鷹柱伊良湖の天を統ぶるかに 鈴木康允
もれもなく日当る百の吊し柿 鈴木康允
なすべきを終へきらずして日短 小森葆子
在るがまま生きて来たりぬ木の葉髪 小森葆子
暮早し少し早めの縄暖簾 鈴の木正紘
初恋を未だ心に木の葉髪 宮崎勉
どこからか雨戸閉む音暮早し 中島彩
旅先の路地に迷へり秋の暮 深谷美智子
小春日や富士の輪郭まろやかに 深谷美智子
休まずに生涯講座木の葉髪 野村親信
櫛入るるのみの粧ひ木の葉髪 野村親信
戸締りに立ち出で暫し月をめづ 新井康夫
孤独死の紙面に拾ふ木の葉髪 鈴木寛
短日の酒恋ふ刻となりにけり 鈴木寛
ひとりでに灯る街灯暮早し 山崎圭子
はやクレーン首折りて並ぶ暮早し 山崎圭子
木の葉髪太めの櫛にこぼれけり 鈴木六花
コスモスの恋から既に半世紀 杉原洋馬
高々と仰ぐ皇帝ダリアかな 杉原洋馬
2012年9月(兼題:「夜長」、「爽やか」、「蜻蛉」)
<特選> 3句  
夜の長し時計の針の遅遅として 小森葆子
大言海言葉と遊ぶ夜長かな 野村親信
赤子には赤子の夜長ありにけり 宮崎勉
<その他の入選> 24句  
爽やかや路地には路地の風のあり 本多悠天
利根河原編隊めける赤蜻蛉 本多悠天
爽涼や戸外へ一歩夜勤明け 小森葆子
湯上り児シャボンの匂ひさわやかに 本多登代子
爽やかや口衝いて出るありがたう 本多登代子
宇治十帖いよいよ佳境灯親し 本多登代子
無農薬畑なんです赤とんぼ 鈴木康允
東北展大槌町産今年酒 鈴木康允
朝顔の今朝は昨日と同じ数 深谷美智子
良き詩の言葉を探る夜長かな 野村親信
爽やかに闘病の日々語らるる 野村親信
爽やかや伝ひ歩きの得意顔 鈴の木正紘
蜻蛉の目の玉顔を隠しけり 鈴の木正紘
爽やかやここまでずっと青信号 鈴木寛
ビル群の進みゐるかに野分雲 鈴木寛
爽やかな風吹き渡るテラス席 中島彩
源氏物語ひもとく夜長かな 中島彩
茅葺を守り継げる里あきつ群る 山崎圭子
とんぼ群るここらかつての古戦場 山崎圭子
映画観て夜長の街に出たりけり 新井康夫
ほろ酔ひや街の夜風の爽やかに 新井康夫
ヱノコロの勝手気ままに向く穂先 杉原洋馬
ふと過ぎる風にとんぼの乗りにけり 鈴木六花
信濃路や行く先々の爽やかに 鈴木六花
2012年7月(兼題:「避暑」と「氷菓」)
<特選> 3句  
聞き慣れぬ鳥に目覚めぬ避暑の宿 本多悠天
画廊あり美術館あり避暑散歩 山崎圭子
図書館に読書三昧避暑気分 鈴の木正紘
<その他の入選> 20句  
避暑客に混み合ふ朝の河童橋 本多登代子
ウエストン碑を訪ねんと避暑散歩 本多登代子
富士と湖一望の丘避暑の宿 本多悠天
計画の盛り沢山や避暑の旅 宮崎勉
公園は物音もなく油照り 宮崎勉
汗入るる一樹のあらず鍬を打つ 鈴木康允
此処にまた富士の湧水避暑散歩 山崎圭子
甲板にファションさまざま避暑の客 深谷美智子
アンテイーク売る店もある避暑地かな 深谷美智子
遠き日のあのガラス器のかき氷 鈴木寛
奥穂高望むテラスに氷菓食ぶ 杉原洋馬
せせらぎの音近々と避暑の宿 中島彩
殊のほか温泉よろし避暑の宿 新井康夫
雲海を突き破りをり槍ケ岳 満江信之
何でも屋閉ぢて避暑期の果てにけり 小森葆子
文豪の避暑の部屋とてありしまま 小森葆子
舌(ベロ)出して色競ひ合ふかき氷 鈴木六花
朝散歩朝湯楽しむ避暑の宿 鈴木六花
避暑散歩にも万歩計手離さず 野村親信
かすかなる瀬音に目覚む避暑の宿 野村親信
2012年5月(兼題:「黴」、「牡丹」)
<特選> 3句  
詰襟のアルバム写真黴臭ふ 本多悠天
キャンバスに納まりきらぬ牡丹かな 中島彩
アルバムの黴払ひつつページ繰る 中島彩
<その他の入選> 20句  
尻高く牡丹の芯に蜂潜る 小森葆子
黴臭ふ空白多き父の日記 野村親信
旅衣重ぬる貴船青葉冷え 野村親信
衰兆す花は摘まるる牡丹園 本多悠天
黒き虫蕊に潜れる白牡丹 本多悠天
ありし日の通勤靴に黴の花 鈴木康允
黴の香や捲る亡父の住所録 鈴の木正紘
思ひ出のスタジャンどこか黴臭ふ 満江信之
飼ひ犬の出迎へくるる黴の宿 宮崎勉
その上(かみ)の鰊御殿や富貴草 宮崎勉
竹の皮落ち重なりて静かなり 中島彩
頤和園の牡丹かくやと思ひけり 鈴木寛
たまさかに開けば原書黴臭ふ 新井康夫
楠大樹老木にして若葉燃ゆ 杉原洋馬
アメンボの面対称の影踏まふ 杉原洋馬
牡丹咲く浄土を模せる庭園に 山崎圭子
花ひとつひとつに牡丹杖貰ふ 山崎圭子
牡丹の崩るるさまにどつと散る 深谷美智子
美術展出でてまぶしき新樹かな 深谷美智子
一歩して古き洋館黴にほふ 宮田望月
2012年3月(兼題:「しやぼん玉」と「下萌え」)
<特選> 3句  
しゃぼん玉スカイツリーに向けて吹く 本多悠天
萌ゆる草なべて尖れど柔らかく 小森葆子
兄吹けば妹追へるしゃぼん玉 鈴の木正紘
<その他の入選> 23句  
舗装路の割れ目に早も萌ゆるもの 本多悠天
しゃぼん玉吹く子の目玉寄りにけり 本多悠天
下萌えや南アルプス遥かにす 鈴木康允
日の高く土手に輝くいぬふぐり 小森葆子
息止めて割れじと祈るシャボン玉 小森葆子
しゃぼん玉消え行く先の青き空 市川毅
今がすぐ過去となりゆくシャボン玉 宮崎勉
下馬とのみ一碑傾ぶき下萌ゆる 山崎圭子
昨日今日なるに下萌え目に確か 山崎圭子
雨音のいつしか絶えて雪となる 新井康夫
飛石のひとつひとつに下萌ゆる 鈴木六花
めざましを止めてまどろみ春の夢 満江信之
湧きいづる調べのごとくしゃぼん玉 深谷美智子
打ち捨てしままの鉢にも草萌ゆる 深谷美智子
野球場跡広々と下萌ゆる 鈴の木正紘
一振りの鍬にかがやく春の土 鈴の木正紘
下萌えを散歩の足に踏むまじく 中島彩
一面を染める瑠璃色犬ふぐり 中島彩
しゃぼん玉音符のやうに連なりて 鈴木寛
また一輪椿落ちたる夕べかな 杉原洋馬
たむろして駅華やぎぬ卒業子 杉原洋馬
色さびし夜に吹くなるしゃぼん玉 野村親信
天地の力漲り下萌ゆる 野村親信
2012年1月(兼題:兼題:「雪」(雪おろし、吹雪、雪だるま、雪礫、雪の宿、雪晴、雪目など雪に関するもの)、「探梅」(梅探る))
<特選> 2句  
求道の如みな無口雪を掻く 鈴木寛
狐狸河童民話の村に雪降れり 野村親信
<その他の入選> 19句  
百年の梅寒肥を惜しみなく 小森葆子
わが飛機の影のみ動く雪の原 小森葆子
菅公の歌碑の辺早も梅ふふむ 鈴の木正紘
ふるさとの山の一つに梅探る 野村親信
線路脇行き場なきかに雪残る 本多悠天
ゆくりなく滝に会ひもし梅探る 本多悠天
せせらぎの音に沿ひつつ梅探る 宮崎勉
餌撒くを知るかに今朝も寒雀 深谷美智子
この茶屋の饂飩も目あて探梅行 鈴木寛
永平寺不意に肩打つしづり雪 鈴木寛
高高と畝青青と葱畑 鈴木康允
トンネルを出でて一変雪景色 山崎圭子
はからずも弘法の井戸梅探る 山崎圭子
さし渡る月光蒼き雪の原 鈴木六花
初雪に童のごとく浮きたちぬ 杉原洋馬
蕗の薹雪の帽子を被りをり 中島彩
雨戸繰る目に突然の銀世界 中島彩
風に舞ふ枯葉にあらず群雀 新井康夫
雪だるま道路の土も混じりけり 満江信之
2011年11月(兼題:「冬仕度(冬支度)、冬用意」、「帰り花(返り花)」)
<特選> 3句  
合掌家萱葺き足すも冬仕度 山崎圭子
落葉蹴る晴らす鬱憤なけれども 鈴木康允
日の差すと野焼きの炎色失せり 鈴木寛
<その他の入選> 28句  
手庇に確(し)かと仰ぐは返り花 本多悠天
高みなる老人ホーム返り花 本多悠天
返り花けふは良きことありさうな 鈴木康允
犬小屋の位置替へやるも冬仕度 宮崎勉
母のメモ今も頼りに冬仕度 小森葆子
手近にぞ土鍋を出すも冬用意 小森葆子
返り花ならず十月桜とや 杉原洋馬
西方に富士のくつきり冬立ぬ 杉原洋馬
父母の遺品整理も冬支度 鈴の木正紘
明日に出る検診結果返り花 鈴の木正紘
状差しにそのまま忘れ扇かな 新井康夫
災害に傷みし梨の返り花 鈴木寛
日和よし庭を巡れば返り花 深谷美智子
新しき眼鏡に慣れず日短 深谷美智子
茶の花やうつむくもあり反るもあり 深谷美智子
蹲踞の水の新し竹の春 深谷美智子
家小さくとも冬支度それなりに 市川毅
震災地いかばかりかな冬仕度 市川毅
戻り道にて出合ひもす返り花 鈴木六花
冬仕度日のあるうちにもうひとつ 鈴木六花
編み物の本買ふことも冬仕度 野村親信
今年はも庭師を入れず冬支度 野村親信
二の丸の跡の庭園返り花 山崎圭子
義央忌墓所につつじの返り花 山崎圭子
こふのとり飛びかふ空に冬の虹 宮田望月
今日こそと日差しを待ちて冬支度 中島彩
落葉掃く落葉に話しかけもして 中島彩
黄金の雨ふるごとく銀杏散る 中島彩
2011年9月(兼題:蜻蛉、秋)
<特選> 3句  
末広に棚田千枚豊の秋 山崎圭子
ひと畝を残して仕舞ふ秋の暮 鈴木康允
蝉むくろコロンと腹を天に向け 杉原洋馬
<その他の入選> 22句  
ホツプステツプ水面をたたく蜻蛉かな 本多悠天
野路行くやいつしか増ゆる赤トンボ 小森葆子
秋の蚊の音幽けくもしゆうねかり 小森葆子
地下出でて日は眩しくも風は秋 小森葆子
東京にも蜻蛉の群るる空のある 野村親信
水澄める川辺に古りぬ万葉碑 野村親信
子供らの泥んこ遊び水温む 鈴の木正紘
頬杖をつける推敲秋灯下 鈴の木正紘
休めたる鍬に止まれる蜻蛉かな 鈴木康允
秋風や病気の友のことをふと 宮崎勉
虚ろなる心にしみる秋の風 宮崎勉
沖を向く人影ふたつ秋の浜 深谷美智子
真夜覚めて枕辺に聞く虫の声 深谷美智子
この歩板八丁蜻蛉観よとこそ 山崎圭子
赤とんぼ行きつ戻りつ富士裾野 中島彩
虫の音の殊に澄むなる夜明け前 中島彩
草むらにせせらぎの音とんぼ飛ぶ 鈴木六花
伸ばす手に葉洩日揺るる葡萄狩 鈴木寛
鬼笑ふ如く割れたる柘榴かな 鈴木寛
目の合ひてトンボは頭かしげけり 満江信之
葦原の秋の入日に櫓を早やむ 宮田望月
今日の空愁ひなきかに澄みわたる 新井康夫
2011年7月(兼題:心太、黴)
<特選> 3句  
新書売る黴の臭へる古本屋 本多悠天
心太流れのごとく突き出さる 山崎圭子
悔やまれるあの一言や心太 鈴木寛
<その他の入選> 20句  
黴払ふ甲乙丙の通信簿 野村親信
一突きに三十二本心太 野村親信
心太武骨なりける茶屋主 野村親信
たわいなき噂話や心太 鈴の木正紘
カナカナの谷一面に響交へる 杉原洋馬
わさび海苔たつぷり添へて心太 小森葆子
過去帳に黴の臭ひの無くもなし 小森葆子
古書店の一歩に黴の臭ひけり 小森葆子
どこにかは黴のにほへる更衣室 市川毅
心太一本箸を作法とす 鈴木康允
黴の香のあれど落ち着く我が小部屋 宮崎勉
かくまでも夕日が焦がす麦の秋 宮崎勉
再会や昔変はらぬ心太 中島彩
十王堂黴の臭ひのあるはあり 山崎圭子
酢醤油は母の塩梅心太 鈴木六花
今言ひし事なんだつけ心太 鈴木六花
開け放つ黴の匂ひを払はんと 深谷美智子
仕舞ひ置きゐしブランドの品に黴 満江信之
歯応へといふものあらず心太 新井康夫
浮人形掬ひといふも祭店 中野美奈子
2011年5月(兼題:五月雨、竹の子)
<特選> 3句  
ふらここの影の伸びたり縮んだり 山崎圭子
筍の掘つて欲しげに顔を出す 市川毅
母の日に母になるとの知らせかな 鈴の木正紘
<その他の入選> 21句  
黙々と行き交ふ傘や五月雨 鈴木康允
届きたる筍土のにほひけり 小森葆子
筍の戸板に並ぶ無人店 小森葆子
筍を自由に掘れと鍬までも 小森葆子
石畳その隙間より今年竹 本多悠天
五月雨るる利根の堤の低きかな 本多悠天
五月雨や町をつらぬく濁り川 野村親信
丘統ぶる白き寺院や風光る 宮崎勉
風薫るセーヌの河畔もとほれり 宮崎勉
いや白き少女の腕更衣 深谷美智子
御油に古る傾城の墓さみだるる 山崎圭子
尺取虫(しゃくとり)の瓦礫の山を縫ひにけり 中野美奈子
朝堀りの竹の子抱へ友来たる 鈴木六花
卯の花の滝のごとくに咲きなだる 杉原洋馬
見渡せばパステルカラー山笑ふ 杉原洋馬
十薬の際立つ花の白さかな 中島彩
凛として深紫の花菖蒲 中島彩
筍を置けばそのまま姫人形 鈴木寛
五月雨や縁側で切る足の爪 鈴木寛
五月雨や門灯映す石畳 満江信之
空豆の茹で加減よし麦酒よし 新井康夫
2011年3月(石鹸玉、水温む)
<特選> 3句  
洗たくの手を止め母もしやぼん玉 野村親信
耕すや老いを感じる暇もなく 鈴木康允
一振りの打球鋭く風光る 鈴の木正紘
<その他の入選> 25句  
富士めがけ浜辺に吹けるしやぼん玉 本多悠天
群るるなる鯉の彩り水温む 本多悠天
かがよひて飛び行く風のしやぼん玉 野村親信
山葵田の光り溢るる水豊か 宮崎勉
末の子のはにかみ吹けるしやぼん玉 宮崎勉
男飯作る厨房水温む 鈴木康允
消ゆるまで一つを追ひぬシヤボン玉 鈴木康允
シヤボン玉ふはりと垣を越えゆけり 小森葆子
吹き加減覚えて楽しシヤボン玉 小森葆子
棒切れを流す子供ら水温む 深谷美智子
つぶらなる碧きひとみやいぬふぐり 深谷美智子
鯉の跳ね不忍池(しのばず)の水温みけり 鈴木寛
甲羅干す亀ゐて池の水温む 鈴木寛
どこからともなく流れ来石鹸玉 新井康夫
しやぼん玉姉追へばまた妹も 山崎圭子
しやぼん玉合戦子らの吹き合ひて 山崎圭子
眉を寄せ口を尖らせしやぼん玉 山崎圭子
暖房を切る被災者の映像に 杉原洋馬
きらきらと光る川面や水温む 鈴木六花
水尾を引く水禽親子水温む 鈴木六花
この里に嫁御来たると山笑ふ 鈴の木正紘
引き込める棚田の水も温みけり 中島彩
膝の上(え)にしばし抱きもし雛納む 満江信之
霜柱音確かめたくて踏んでみる 満江信之
手洗ひの幼子に水温みけり 満江信之
2011年1月(兼題:日脚伸ぶ、マスク)
<特選> 3句  
日脚伸ぶもう一畝と鍬入るる 小森葆子
マスクして暫し無口の子となれり 野村親信
連凧の階段めきて天に伸ぶ 本多悠天
<その他の入選> 24句  
目礼に目礼返すマスクかな 小森葆子
福耳の掛けやすげなるマスクかな 小森葆子
埃舞ふ朝の光や春立ぬ 深谷美智子
リハビリの母の歩みや日脚伸ぶ 深谷美智子
日脚伸ぶお砂場遊びまだ続き 深谷美智子
日脚伸ぶ猫はしきりに毛繕ひ 野村親信
遠目にし白さ際立つマスクかな 鈴木康允
横道に逸れもす散歩日脚伸ぶ 宮崎勉
故郷の星満天の聖夜かな 宮崎勉
さよならと別れのマスク外しけり 鈴の木正紘
干し物を取り込むころや日脚伸ぶ 鈴の木正紘
日脚伸ぶ買物帰りの立ち話 市川毅
退院の見通し立ぬ日脚伸ぶ 山崎圭子
律儀さの窺ひ知れるマスクかな 山崎圭子
日脚伸ぶボールを追へる少年に 本多悠天
読み返す病床からとある賀状 杉原洋馬
息白し散歩の犬も共々に 杉原洋馬
日々励むリハビリ日脚のびにけり 鈴木寛
餅花や昔ながらの三年坂 鈴木寛
赤信号マスクの並ぶ交差点 満江信之
マスク降りマスク乗り込む朝の駅 鈴木六花
日脚伸ぶ一駅先の店寄らん 新井康夫
カップ上げあわてて外すマスクかな 中島彩
ゆくりなく富士をスケッチ始めかな 中島彩
2010年11月(兼題:七五三、小春)
<特選> 3句  
高鳴れる津軽三味線外は雪 小森葆子
玉串を置く台低く七五三 山崎圭子
一葉の住みし路地より七五三 本多悠天
<その他の入選> 22句  
旅にして信濃の秋を惜しみけり 宮崎勉
人けなき寺苑に響く僧都かな 宮崎勉
袴着や裾をはしょりて鳩追へり 小森葆子
手のかかる息子と言ひて松手入 小森葆子
目当てとすどぶろく祭飛騨の旅 鈴の木正紘
石段に裾を絡げて七五三 鈴木康允
衣被ぎ熱熱を剥き杯すすむ 鈴木康允
付き添へる大人六人七五三 深谷美智子
ほほ紅も口紅もさし七五三 深谷美智子
小春日や耳よく動く眠り猫 本多悠天
抱かる子の人形めくや七五三 新井康夫
手を放し跳ねまはりをり七五三 市川毅
その紫紺秘宝めくなる竜の玉 野村親信
はにかめる羽織袴や七五三 中島彩
紅葉よし辺りの緑あらばこそ 中島彩
母の紅さされて嬉し七五三 山崎圭子
輝くは名残りの銀杏黄葉かな 杉原洋馬
千歳飴引き摺りながら社殿下る 鈴木寛
境内の千年欅七五三 鈴木寛
塀越しに声交し合ふ落葉掻き 鈴木六花
風なくも金木犀のよく匂ふ 満江信之
遠拝み初冠雪の御岳を 宮田望月
2010年9月(爽やか、彼岸花・曼珠沙華)
<特選> 3句  
雨ながら燃え拡ごりぬ曼珠沙華 本多悠天
七草に数へられねど吾亦紅 杉原洋馬
秋爽やものみな影を濃くしたる 深谷美智子
<その他の入選> 24句  
涼新た湧き水掬(きく)す掌 鈴木康允
空真青つととどまれる赤蜻蛉 宮崎勉
群れ離れひとつ飛び火の曼珠沙華 小森葆子
虫の声今宵新たに加はるも 小森葆子
三つのみ打ちそれつきり鉦叩 小森葆子
SLの汽笛響かせ天高し 宮田望月
爽やかや靴音ひびく駅の朝 鈴の木正紘
曼珠沙華残して畦の刈られけり 鈴の木正紘
爽やかな朝の挨拶見知らぬ子 鈴の木正紘
金輪際紅を尽くせる曼珠沙華 本多悠天
浄瑠璃姫入水の池畔曼珠沙華 山崎圭子
水澄める小町化粧(けはひ)の井戸とこそ 山崎圭子
秋冷や蛇口の水の温きかな 杉原洋馬
朱の帯を延べたるがごと曼珠沙華 満江信之
爽やかや笑顔の羅漢見つけたり 満江信之
爽やかや澪一筋に船の航く 野村親信
曼珠沙華線路に沿へる山の墓地 鈴木寛
今日の月いま茅葺の屋根の上 鈴木寛
夜勤明け朝(あした)の鐘の爽やかに 新井康夫
雲ひとつ従へ富士の爽やかに 中島彩
ただ一本にても華やか曼珠沙華 中島彩
銀座なる画廊の壺に草の花 深谷美智子
畦真直ぐ一直線の曼珠沙華 鈴木六花
ただ口に葡萄運べる夫と居る 鈴木六花
2010年7月
<特選> 3句  
採集を禁ずる園や蝶涼し 本多悠天
端坐して米寿の母の影涼し 野村親信
一掃除二に勤行や寺涼し 山崎圭子
<その他の入選> 19句  
星涼しこだはり消えてをりにけり 吉沢美佐江
庵の庭涼し箒目乱れなく 吉沢美佐江
夏草の伸び放題の宅地跡 深谷美智子
涼しさや水子地蔵に供華新た 本多悠天
枝打たれ大樹涼しくなりにけり 鈴木康允
父祖の地を巡る旅路や麦の秋 鈴木康允
六合目夏鶯の鳴き交はす 杉原洋馬
鶴首の桔梗一輪凛として 杉原洋馬
ふなべりを飛魚競ふ航涼し 野村親信
棹涼し岩また岩の川下り 小森葆子
噴水のしぶきは風に順へり 宮崎勉
山内の松籟涼し寺宝展 山崎圭子
この噴水稽古せしかに曲に合ふ 山崎圭子
無人駅青田の中に埋もれさう 宮田望月
海原をいま渡らんと月涼し 中島彩
天守閣へと噴水の届きさう 鈴の木正紘
耳に追ふ一匹の蚊の行方かな 鈴木寛
海野宿吹きぬける風の涼しかり 鈴木六花
岩清水白馬の峰を仰ぎ飲む 満江信之
2010年5月
<特選> 3句  
家系図もともに武具をば飾りけり 本多悠天
駒繋ぎ遺れる家並燕来る 山崎圭子
千年家深き庇にツバメの巣 小森葆子
<その他の入選> 22句  
戦なき世の続けかし武具飾る 鈴の木正紘
落人の里の一軒武具飾る 野村親信
腹がけの金時人形武具飾る 野村親信
翻る腹の白さや燕(つばくらめ) 鈴木康允
卓の上のページを乱す青嵐 深谷美智子
万緑の中へと磴を登るかな 深谷美智子
武者幟高しこの里統ぶるかに 山崎圭子
燕の巣非常口なる灯の上に 山崎圭子
楽しげに老女手拍子花筵 宮崎勉
廃校の鏝絵の龍に風光る 宮田望月
童顔の五月人形見得を切る 宮田望月
武具飾る戦なき世になれもして 小森葆子
泥運び古巣繕ふつばくらめ 小森葆子
霧迅し忽ち下界かくしけり 小森葆子
咲き初めは萌黄色なり七変化 小森葆子
足もとを風の如くに燕過ぐ 新井康夫
ビル街の白壁眩し五月晴れ 新井康夫
入園式返事いかにも初々し 杉原洋馬
完走の皇居一周風薫る 杉原洋馬
青空を切るかに燕飛び交へる 中島彩
児童館入るやロビーに武者人形 鈴木寛
新緑に富士近々と三つ峠 満江信之
2010年3月
<特選> 3句  
丘統(す)ぶるかの一巨木風光る 宮崎勉
バンザイの姿のこの木芽吹き急 小森葆子
菖蒲の芽不揃ひながらちょきばかり 山崎圭子
<その他の入選> 20句  
大陸に思いを馳せぬ霾風裡(ばいふうり) 宮田望月
つちふるや重げに回る観覧車 宮田望月
さながらにガラス細工の霧氷林 杉原洋馬
天平の礎石数へつ青き踏む 山崎圭子
日照るとき山の煌めく雨氷かな 満江信之
先頭もしんがりもなし青き踏む 鈴の木正紘
一枚を脱ぎて鍬打つ蝶の昼 鈴の木正紘
余生にはあらず青きを踏みにけり 野村親信
浅草の路地を狭しと猫の恋 小森葆子
靴紐を締め直しもし青き踏む 小森葆子
花かとも見えさにあらず楓の芽 中島彩
芽柳に触れたく歩みゆるめけり 中島彩
老い二人言葉少なに青き踏む 深谷美智子
てふてふの吹きあほられて川渡る 深谷美智子
銀色にうぶ毛の光る木の芽かな 鈴木六花
霾(つちふる)やかつて学びし中国語 鈴木寛
春光やルノアール展出でてなほ 鈴木寛
青き踏む沖に白帆を見やりつつ 新井康夫
文人の墓多くして囀れり 本多悠天
青き踏む一万歩とはいかずとも 鈴木康允
2010年1月
<特選> 3句  
虚子の碑にまづは挨拶初句会 本多悠天
日向ぼこ媼手仕事休みなく  林雪音
初謡卒寿ながらも声につや 小森葆子
<その他の入選> 16句  
椀の湯気際立つ朝(あした)寒の入り 鈴木康允
大病の予後を大事に日向ぼこ  宮崎勉
庭先に転ぶ玩具も春を待つ 宮崎勉
正面に富士を仰げる日向ぼこ 中島彩
夜勤終へ直ちに初湯溢れしめ 鈴木寛
着ぶくれて満天の星ふり仰ぐ 満江信之
山茶花の根元華やか花の塵 新井康夫
よき場所は猫に占められ日向ぼこ 野村親信
藁苞に匿(かくま)はるかの寒牡丹 山崎圭子
豚汁の大鍋待つは寒泳子 山崎圭子
棒を持つ吾(あ)を睨むかの寒鴉 市川毅
寒念仏ジャズの流るる路地にまで 鈴の木正紘
日向ぼこ話またもや後もどり 深谷美智子
大寒や母直伝の小豆煮る 鈴木六花
日向ぼこ移ろひやすき日を追ふて 杉原洋馬
日向ぼこ白き遠山まぶしみて 鈴木康允
 2009年11月  
<特選> 3句
日本晴れなり富士山に神還る 山崎圭子
龍神は発たれたかしら鏡凪 山崎圭子
たぎる湯の音に聞き入る霜夜かな 深谷美智子
<その他の入選> 24句
飛ぶよりも駆ける千鳥の様が好き 本多悠天
水際に張り出す紅葉なべて濃し 本多悠天
電飾の紅葉の映ゆる湖面かな 宮崎勉
山茶花の散り敷きてなほ咲き盛る 宮崎勉
雨音の滲み入ることよ落葉径 宮崎勉
あちこちで歓声あがるみかん狩り 中島彩
村役の今日も出て掃く神の留守 宮田望月
テラス隅盆栽ながら紅葉す 満江信之
ちぎれゐし鈴の緒替ふる神の留守 野村親信
手土産に地酒買ひもす紅葉狩り 鈴木康允
切り通し小春の海へ抜けにけり 深谷美智子
早々と木枯し一号雨戸鳴る 新井康夫
建設の予定地とあり霜柱 山崎圭子
雪吊りの頂点たぶさなせりけり 山崎圭子
風に絵馬鳴り続けゐる神の留守 林雪音
霜を踏む音に始まる朝かな 林雪音
山門の外まで香る菊花展 林雪音
傾ける陽に穂薄の眩しかり 杉原洋馬
谷戸紅葉半ば緑のまじるよし 杉原洋馬
いつもせし母を偲びつ霜囲 市川毅
夕日をば抱くかの紅葉いよよ濃し 鈴木六花(りっか)
サイレンに犬遠吠えす霜夜かな 鈴木寛
対岸のクレーン林立天高し 小森葆子
黄葉(もみじ)すも未だもありたる銀杏かな 小森葆子
2009年9月
<特選> 3句
凭れゐて休めの態(てい)の案山子かな 山崎圭子
規格あるかにこの園の松手入れ 小森葆子
松手入れまづは副木の手入れから 野村親信
<その他の入選> 27句
手をつなぎ親子と見ゆる案山子かな 小森葆子
園児らの作品といふ案山子かな 深谷美智子
屹立の白銀のビル天高し 深谷美智子
百日紅なれどもこれは花白し 新井康夫
長袖を引っ張り出しぬ秋の雨 新井康夫
グライダー飛ぶ大利根の天高し 本多悠天
これはまた宇宙服なる案山子かな 本多悠天
利根の土手秋の草花宝庫かな 本多悠天
鬼竜子の蹴上ぐる天の高きかな 山崎圭子
秋天を分けゆくさまの飛行雲 山崎圭子
油絵の紅重ね塗る曼珠沙華 宮崎勉
聖堂の十字架仰ぐ天高し 中島彩
揺れかはすコスモスやさし石畳 中島彩
楽聖の散歩道とや秋の草 中島彩
ふるさとの山高くして天もなほ 野村親信
自分史を今し書き終へ爽やかに 野村親信
海原に著(しる)き航跡天高し 野村親信
反射光撒けるCD鳥威し 鈴木寛
赤い血を噴きあぐるかに曼珠沙華 鈴木寛
お早うを交はすジョギング爽やかに 満江信之
志ん朝をCDで聴く夜長かな 宮田望月
家中の和服あつらふ七五三 宮田望月
盆栽の松ねんごろに手入れかな 市川毅
こちら向く案山子に言葉掛けにけり 市川毅
牛蒡掘る背丈隠るるほど深く 鈴木康允
背負(しょひ)帰る朝採野菜赤とんぼ 鈴木康允
昨日グー今朝はパーなる桔梗かな 杉原洋馬
2009年7月
<特選> 3句
風鈴の夜は夜の音色とはなれり 鈴木寛
着飾れる花魁めける金魚かな 本多悠天
雲水の身ほとり殊に涼しかり 小森葆子
<その他の入選> 22句
錆浮くも南部風鈴音のよろし 杉原洋馬
川に鯉泳げる町に帰省かな 本多悠天
父の忌を修す早めの帰省かな 新井康夫
ふと目覚む月下美人の残り香に 新井康夫
コロッセオの片蔭にゐて我小さし 宮崎勉
つぎつぎと風吹き渡る青田かな 中島彩
飛入りの担ぎ手まじる神輿かな 小森葆子
婚約者連れての帰省とはなりぬ 小森葆子
母すでに亡くて遠のく帰省かな 市川毅
風鈴や板張りの縁懐かしく 市川毅
母親となりて帰省の娘の眩し 山崎圭子
我の句を吊る風鈴の機嫌かな 山崎圭子
足裏の白さ際立つプールの子 鈴木寛
山河あり帰省に再起誓ひもす 野村親信
何祈る那由他の星の涼しさに 野村親信
伯仲の鵜鷺の争ひ夏座敷 鈴木康允
風鈴の鳴るたび子犬耳立つる 森美鎮子
里山や夕かなかなの遠くより 森美鎮子
三年坂陶(すえ)風鈴の音色よし 宮田望月
風鈴の歌はず仕舞ひ暮れにけり 深谷美智子
お袋の笑顔が見たく帰省かな 満江信之
穴の数さほどあらずも蝉時雨 満江信之
2009年5月
<特選> 3句
街中にして一枚の麦の秋 深谷美智子
筑波嶺に道真つ直ぐや麦の秋 鈴木寛
苗売りの寡黙ながらもまけくれぬ 本多悠天
<その他の入選> 25句
新しき街がすぐ脇麦の秋 宮崎勉
熟るゝとも垂るゝことなき穂麦かな 山崎圭子
すぢ揃ふ早苗田風の梳(くしけず)る 山崎圭子
行燈の如囲はるゝ西瓜苗 山崎圭子
麦踏や大地の力信じをり 市川毅
花鉢の並ぶテラスに茄子の苗 市川毅
つと止まり左右(さう)を窺ふ蜥蜴かな 杉原洋馬
蟻となり潜ってみたしキツリフネ 杉原洋馬
トロ箱に売苗行儀よく並ぶ 中島彩
目指せるはゴーヤカーテン苗を買ふ 中島彩
十薬の十の字の花の白さかな 中島彩
三坪がほどの畑も麦の秋 鈴木康允
異常なく終へし健診夕桜 鈴木康允
フェアウェイに球あらばこ風薫る 鈴木寛
ル−ブル展列ぶ上野の杜五月 鈴木寛
苗箱に早も花つけゐたるあり 林雪音
売れ残りゐて蔓のばす瓜の苗 林雪音
白昼やまぶしきほどに麦熟るる 新井康夫
山門を遠くに望む山桜 新井康夫
鍬の柄にリボン結ばる植樹祭 本多悠天
刈跡に雀群がる麦畑 深谷美智子
ここ濃尾平野植田のどこまでも 宮田望月
プランターの寸土にハーブ苗育つ 小森葆子
花の店丈の低きは野菜苗 小森葆子
麦秋や筑波嶺(つくば)へ雲のゆっくりと 小森葆子
2009年3月
<特選> 3句
豆ほどの雛調度にも葵紋 小森葆子
校庭を立ち去りがたき卒業子 深谷美智子
春愁や手習ひの筆とれどなほ 鈴木康允
<その他の入選> 22句
卒業の子らに託する未来かな 市川毅
菅公の見そなはします梅早し 宮崎勉
行く水のやさしかれとぞ雛流す 小森葆子
再会を固く約して卒業す 小森葆子
門出れば道はそれぞれ卒業す 深谷美智子
猛獣の檻の中にも萌ゆるもの 深谷美智子
文集の夢はさまざま卒業す 山崎圭子
重文の校門くぐり卒業す 山崎圭子
点にして目鼻立ち良く豆雛 山崎圭子
道しるべ無き世へ君ら卒業す 鈴木康允
ビロードをまとへるごとし辛夷の芽 鈴木康允
町おこしどの店先も雛飾る 宮田望月
それぞれに花束貰ひ卒業す 林雪音
剪定の手もとを掠む鳥の影 林雪音
ケイタイに初蝶しかと撮りにけり 鈴木寛
煮こごりのふるへつ飯の上(え)に融けぬ 鈴木寛
ジーパンを袴に替へて卒業す 本多悠天
ねんごろに皺を伸ばして若布干す 本多悠天
雪洞の灯に映ゆるなる雛かな 杉原洋馬
落椿しべの黄色の褪せてゐず 杉原洋馬
掌に収まるほどの雛かな 中島彩
里歩き蒲公英すみれ蓮華草 中島彩
2009年1月
<特選> 3句
駆寄る児抱き留む母も息白し 山崎圭子
馬場に出る乗り手も馬も息白し 林雪音
水底に揺らぐものあり水温む 小森葆子
<その他の入選> 25句
河豚雑炊うまし鍋底まで浚ひ 林雪音
アメ横や値切り値切らる息白し 本多悠天
日脚伸ぶ隅々巡る自然園 本多悠天
菰被り一家族めく寒牡丹 本多悠天
息白く一番列車待ちにけり 小森葆子
泉岳寺墓参の役者息白し 宮田望月
揺れゆれて空を掃くかの枯木かな 宮田望月
熱く説く人種問題息白し 山崎圭子
日脚伸ぶあと一畝を整へん 山崎圭子
魚河岸の競り合ふ人ら息白し 杉原洋馬
夕刊を読みゐる窓辺日脚伸ぶ 杉原洋馬
日脚伸ぶ絵筆持つ手のねんごろに 鈴木康允
頬赤き登校の子等息白し 鈴木寛
日の丸を畳む祝日日脚伸ぶ 鈴木寛
玄関に置くべビーカー春を待つ 深谷美智子
豆を煮る厨の匂ひ年用意 深谷美智子
登校の子らに割らるる初氷 深谷美智子
朝まだき厩舎の馬の息白し 市川毅
書初めや古筆のさばき手本とし 市川毅
いつまでも車窓に富士や日脚のぶ 森美鎮子
アドバルーン真直ぐに上がる冬日和 森美鎮子
鼻歌の出てくる散歩日脚伸ぶ 中島彩
冬晴れや富士の姿のすっきりと 中島彩
我よりも先行く犬の息白し 宮崎勉
寒波くる坂より富士のよく見えて 宮崎勉
2008年11月
<特選> 3句
メモ通りおでんを温め一人酌む 山崎圭子
お国振り味噌派辛子派おでん酒 山崎圭子
がんも好きこんにゃくも好きおでん鍋 小森葆子
<その他の入選> 23句
宿下駄の爪先濡らす時雨かな 林雪音
おでん鍋温め直す留守居かな 林雪音
声高に応ふ声高おでん酒 本多悠天
ロダン像顎より雫冬の雨 本多悠天
自然薯のあると知らるる蔓黄葉 宮田望月
我が家風談義となれるおでんかな 山崎圭子
鳥の羽載れる餌台に時雨けり 杉原洋馬
土手道をすつかり覆ふ落葉かな 杉原洋馬
山茶花の散り敷く上になほも散る 新井康夫
並木今黄金の落葉畳なす 新井康夫
家族とて好みそれぞれおでん煮る 鈴木康允
秋天をつきぬけるかのポプラかな 鈴木康允
おでん手に八丁味噌の国自慢 鈴木寛
おでん鍋温めなおす昼餉かな 深谷美智子
来し方を語る横顔おでん酒 深谷美智子
ことさらの富士の麗姿や冬はじめ 深谷美智子
靴ぬげて泣ける園児も運動会 市川毅
妻遠出昨夜(よべ)よりおでん作りおき 森美鎮子
時雨亭出づる折しも時雨かな 中島彩
音も無く肩を濡らせる時雨かな 中島彩
飾り窓ポインセチアに灯のともる 中島彩
佇つ我に水尾を引き来る鴨親し 宮崎勉
木漏れ日や落葉を踏めば温かく 宮崎勉
2008年9月
<特選> 3句
菊人形「武蔵遅い」と見据ゑたる 宮崎勉
立錐の余地無し畦の曼珠紗華 宮田望月
叩かずに線路を走る石叩き 本多悠天
<その他の入選> 25句
コスモスを好きに咲かせて山住ひ 林雪音
点滴のしづくの刻む夜長かな 林雪音
声すれどコスモス畑に児の見えず 本多悠天
アルバムの整理などして夜長かな 本多悠天
そよぐたび野仏撫づる秋桜 小森葆子
帰るあり来るあり夜長酌み交はす 小森葆子
長き夜や長編いよよ佳境なる 小森葆子
一人居の好きなことして夜長かな 宮田望月
田ごとなる赤き縁取りまんじゅしゃげ 宮田望月
コスモスを渡りきたれる風やさし 山崎圭子
コスモスの倒れてをれど花あまた 杉原洋馬
虫の音のしげし頭上の枝からも 杉原洋馬
山の花図鑑に探る夜長かな 杉原洋馬
読み止しの書物に向かふ夜長かな 新井康夫
ワイン酌み友と語らふ夜長かな 鈴木康允
嬉々として鷺は苅田を漁りけり 鈴木康允
看護婦の足しのばする夜長かな 鈴木寛
長き夜の長き身の上話かな 深谷美智子
ひとしきり風に乱れて秋桜 深谷美智子
同期会話し尽きざる夜長かな 市川毅
辞書片手パズル楽しむ夜長かな 森美鎮子
しばらくはコスモスに沿ふ通学路 森美鎮子
とりどりのコスモスの色風に揺れ 中島彩
夏の家解かれて浜の広きこと 中島彩
倒れても地を這ひ起きる秋桜 宮崎勉
2008年7月
<特選> 3句
外灯の一斉に点く夜涼かな 鈴木寛
をみな等は意気高くしてビール干す 林雪音
屋形船櫛比(しっぴ)に舫ひ鵜飼待つ 山崎圭子
<その他の入選> 25句
ビール酌み合ひていよいよ座のほぐれ 林雪音
崩れんとして輝ける雲の峰 林雪音
咽にしむビール最初の一杯目 本多悠天
犬吠の三方は海雲の峰 本多悠天
星に触れさうな屋上ビアガーデン 小森葆子
下戸なれどビール片手の宴楽し 小森葆子
放牛の散らばる牧場雲の峰 小森葆子
高層のビルを低しと雲の峰 小森葆子
港には港の風やビール飲む 宮田望月
ともあれの乾杯高くビール干す 山崎圭子
盛り上がる泡を一吹きビール干す 杉原洋馬
雲の峰夕陽に染まりなほ立てり 杉原洋馬
久々や息子相手にビール飲む 新井康夫
向日葵の背の高きほど花大き 新井康夫
六十路には六十路の青春ビール干す 鈴木康允
野良仕事老鶯しきり鳴く朝(あした) 鈴木康允
泡髭をつけて笑顔のビールかな 鈴木寛
ひた走る湾岸道路雲の峰 深谷美智子
カーテンを揺らす風ある午睡かな 深谷美智子
一訃報ビール苦しと思ひけり 市川毅
黴の香もなつかし生家築百年 野村親信
座るなりまづはビールの声の飛ぶ 中島彩
雲の峰大草原の果てしなく 中島彩
病室の窓の高さに雲の峰 宮崎勉
この暑さ木陰移れば犬もまた 宮崎勉
2008年5月
<特選> 3句
緑陰や野外授業の一クラス 山崎圭子
蝌蚪よりも小さき蛙となりにけり 杉原洋馬
教室の明るくなりぬ衣替 深谷美智子
<その他の入選> 18句
とれかけの釦に気づく更衣 鈴木寛
乱暴に風駆けぬけり麦の秋 鈴木寛
仕舞ひ湯に千切れ菖蒲のなほ香る 大野朝香
早苗待つ田のしろしろと水明り 大野朝香
赤らめる根茎嗅ぎもす菖蒲の湯 本多悠天
衣更お下がり丁度よき丈に 小森葆子
曲家の軒の低きに菖蒲葺く 小森葆子
きょうも雨予定たたざる衣更 宮田望月
うぐひすやいつしか雨の上がりをり 宮田望月
尼様は黒から黒へ更衣 山崎圭子
脱ぎっぷりよきもしぶるも竹の皮 山崎圭子
交番のお巡りさんも衣更 新井康夫
鶯の声のしきりや山の寺 新井康夫
あでやかさ競ひ合ふかの花菖蒲 鈴木康允
お茶会に参る衣を更へにけり 鈴木康允
暗闇に匂ふてくるは花蜜柑 森美鎮子
部屋になほ樟脳の香や衣替 深谷美智子
翡翠の一閃の色目に確(しか)と 深谷美智子
2008年3月
<特選> 3句
ふとおん目覚まされさうな寝釈迦かな 山崎圭子
梅林これも豪農邸うち 小森葆子
菖蒲の芽八橋高く架かりけり 本多悠天
<その他の入選> 20句
夜半の雨木々の芽吹ける気配かな 小森葆子
童謡を口ずさみつつ青き踏む 中島彩
早春の花おしなべて黄色かな 中島彩
ひとひらのただひとひらの落花舞ふ 中島彩
日の差すと火色の褪せぬ春暖炉 林雪音
野蒜の根大地掴むも深からず 林雪音
芽柳の緑深まる雨上がり 新井康夫
雛仕舞ふ娘に嫁ぐ気の有りや無し 鈴木康允
マンホール蓋の隙間に芽吹くもの 山崎圭子
苔鎧ふ老幹にして濃紅梅 山崎圭子
背伸びするかに諸枝の芽吹きけり 森美鎮子
固き芽の静かに力ひそむかに 深谷美智子
いぬふぐり瑠璃を撒きたるごときかな 深谷美智子
毛衣のごときを割りて新芽出づ 大野朝香
庭中の赤い実ヒヨが食べ尽くし 大野朝香
雑木山けぶるがごとく芽立けり 鈴木康允
スキップの子もゐて青き踏みにけり 鈴木康允
残月に白木蓮の白妖し 宮田望月
風のまだ痛しバラの芽赤らめど 杉原洋馬
船を下り離宮の跡の青き踏む 杉原洋馬
2008年1月
<特選> 3句
寒紅をさして人形仕上げとす 山崎圭子
托鉢の僧列よぎる息白し 森美鎮子
とりわけてメタセコイアの冬木立 杉原洋馬
<その他の入選> 35句
寒卵かざせばほのか黄身の色 林雪音
曇天の底焦がすかのどんどかな 林雪音
山向かうなる左義長の匂ひ来ぬ 林雪音
鉄路にぞ触れては消ゆるぼたん雪 林雪音
大寒や中天に月煌々と 中島彩
干大根思ひ思ひの向きに反り 中島彩
漆黒の海に真向かひ初日待つ 森美鎮子
蝋梅の香をこころあて回り道 杉原洋馬
寒ばらの棘に鮮血ふき出しぬ 杉原洋馬
自転車で急ぐ力士の息白し 本多悠天
寒鯉の鰭のゆらりと動きけり 本多悠天
寒晴に櫓太鼓の響きけり 本多悠天
朝刊を取りに出づれば息白し 新井康夫
開きゐる寒紅梅の二つ三つ 新井康夫
風の朝雪の遠富士くっきりと 新井康夫
大寒や鈍色の空低く垂れ 新井康夫
東雲の富士に柏手年明くる 鈴木康允
湯煙と古寺を巡りて去年今年 鈴木康允
寒雷や暁の一つのそれっきり 山崎圭子
寒晴れや富士の稜線きはだちぬ 小森葆子
池底に頭寄せ合ふ寒の鯉 小森葆子
散歩せる犬も少女も息白し 小森葆子
渦巻いて落葉駈け行く石畳 小森葆子
老婆心ながらとありぬ寒見舞 田中順
頬赤き登校の子の息白し 鈴木寛
白息の掛け声力ありにけり 鈴木寛
またひとひ生きめや寒の水甘し 宮田望月
寒茜富士をひときは染めにけり 深谷美智子
息白く共にあいさつ交はしけり 深谷美智子
寒ながら海の輝く伊豆に旅 宮崎勉
朝市女勧め上手の息白し 宮崎勉
鳩の足殊更赤く寒の入り 大野朝香
寒風に挑むが如く鴉翔ぶ 大野朝香
あやせるが如く糸出し凧揚ぐる 大野朝香
すきま無きほどなる蕾梅古木 大野朝香
2007年11月
<特選> 3句
酉の市出づれば路地の闇深し 小森葆子
遠拝みして山門の落葉掻く 林雪音
通夜寒し昔なじみのかたまりて 田中順
<その他の入選> 25句
コンサート帰りの道に落葉舞ふ 鈴木康允
箒持つ背に散りかかる落葉かな 満江信之
空青き安達太良山の紅葉かな 満江信之
それぞれの軌跡を描き落葉降る 宮田望月
普段着のままに参るも七五三 本多悠天
音たてて踏みゆく落葉畳かな 本多悠天
掃けどなほきりなき欅落葉かな 深谷美智子
深々と銀杏落葉の散り敷ける 深谷美智子
重たげの長き袂や七五三 深谷美智子
犬を連れ雑木林の落葉踏む 宮崎勉
尾根道を行くふかぶかの落葉踏み 杉原洋馬
立冬やもやに突き出づビルの群 杉原洋馬
孤高なる朴は落葉を尽くしけり 山崎圭子
白白となぞへになだる朴落葉 山崎圭子
兄の手を握りしめゐる七五三 中島彩
箒目の新たな上にまた落葉 中島彩
袴着の神妙にして撮られけり 鈴木寛
落葉掻く音のみ坊のしづけさに 鈴木寛
電飾の日暮れを待たず街師走 林雪音
尾根を越へ悠然と鷹現はるる 林雪音
ぺコちゃんの晴着姿や七五三 小森葆子
酒のあて湯豆腐作る一人の夜 新井康夫
抱っこさる児の抱きゐたる千歳飴 大野朝香
雨上がり落葉畳の匂ひ立つ 大野朝香
日曜日猫も起き来ず朝寒し 森美鎮子
2007年9月
<特選> 3句
少年のTシャツあせて夏終はる 深谷美智子
茹でしのみなれど佳き名よ衣被 山崎圭子
剪定の脚立に立てば天高し 大野朝香
<その他の入選> 26句
踏切に待つ足元に草の花 鈴木寛
秋草に埋もれさうや道祖神 大野朝香
薮かげの水引草(みづひき)ことに紅の濃し 大野朝香
濃き色の口紅えらぶ秋深し 大野朝香
句碑歌碑を囲む秋草百花園 本多悠天
石をなほよぢ上らんと蝉の殻 本多悠天
千草にも効能しるす薬草園 小森葆子
手向けんと草の花摘む辻地蔵 小森葆子
テラスにて朝のコーヒー爽やかに 小森葆子
虫かごを先づは覗ける帰宅の子 小森葆子
灯親し日に一冊を読破せむ 宮田望月
爽けしや北一字なる方位盤 山崎圭子
個展する卆寿の笑顔爽やかに 中島彩
名月をグラスに映し乾杯す 中島彩
駅出ればにはかに高し虫の声 深谷美智子
爽やかや新居の畳拭きあげて 深谷美智子
鶺鴒の尾のタクトぶり見て飽かず 杉原洋馬
ここにまた蝉のむくろの転げ居り 杉原洋馬
谷間(たにあひ)の寺蜩の鳴き継げり 新井康夫
何となく開きて閉づる秋扇 新井康夫
珈琲の香り弥増す秋の夜半 新井康夫
土手一里歩かん秋の草数へ 鈴木康允
鎌倉の大仏仰ぐ残暑かな 田中順
秋の草風の揺すりて過ぎにけり 西野恵子
隧道の口へと走る紅葉かな 野村親信
彼岸花真っ赤な嘘を思ひけり みさきたまゑ
2007年7月
<特選> 4句
昼寝の子縦横斜め敷居越え 小森葆子
風涼し書を置き眺む木々の揺れ 新井康夫
畑中の一木にして蝉時雨 山崎圭子
夜となれば風鈴外す団地住み 小森葆子
<その他の入選> 25句
大の字に三代並ぶ昼寝かな 大野朝香
てっぺんに名残の一つ沙羅の花 大野朝香
若夫婦嬰(やや)の昼寝のお相伴 宮崎勉
千鳥塚涼し翁の筆なれば 山崎圭子
翁塚守るかの欅樹下涼し 山崎圭子
夕顔の雨に打たれて破れけり 杉原洋馬
高層のビルの狭間の遠花火 杉原洋馬
普請場の遠き槌音昼寝覚む 宮田望月
化粧塩(けはひじお)端正に鮎焼きあがる 宮田望月
早起きは三文の得草を引く 中島彩
安曇野のここにも湧ける清水かな 中島彩
手を浸し見る日盛りの山葵田に 中島彩
風涼し川に沿ふなるウォーキング 鈴木康允
笹鳴ける畑へ行く道帰る道 鈴木康允
空仰ぐどこにかはある天の川 田中順
2006年5月
<特選> 3句
藤垂れていよよ狭まる杣の道 小森葆子
緑とて色のさまざま若葉山 深谷美智子
鴨足草竿燈めける花を揚ぐ  山崎圭子
<その他の入選> 21句
城址とて空濠ばかり若葉雨 山崎圭子
羽黒山雨の上がりぬ若葉風 新井康夫
若葉雨五百羅漢をみな濡らす 山崎圭子
若葉映ゆ街をウインドショッピング 山崎圭子
万緑や朱の山門の紛れなし 山崎圭子
山靴の紐締め直す青葉風 宮田望月
雨はじきてらてら光る柿若葉 深谷美智子
古本屋出ればまぶしき若葉かな 本多悠天
白球を打つ少女らに若葉風 深谷美智子
木漏れ日のまぶし若葉の天城越え 満江信之
日照雨去りいよいよ光る樟若葉 鈴木寛
渓風に楓若葉の揺れやまず 深谷美智子
流れゆく雲を映せる代田かな 小森葆子
只中にあるヘリポート麦の秋 大野朝香
また一つ小さきままに実梅落つ 杉原洋馬
虹の橋武蔵相模をつなぎけり 小森葆子
代田澄み遊子のごとき雲ひとつ 中島彩
タンポポのひときは目立つ利根堤 本多悠天
奥の院へと道とれば蛙鳴く 新井康夫
茶畑のその一隅に鯉幟 杉原洋馬
蜘蛛の巣に水粒たれて梅雨長し 杉原洋馬
2006年3月
<特選> 3句
春窮の雀禽舎の餌台占め 山崎圭子
春一番力士幟の倒れさう 本多悠天
尾根道の今は足下に囀れり 小森葆子
<その他の入選> 18句
乳飲み子のうぶ毛の光る春日かな 深谷美智子
春めくや立ち止まり聞く水の音 田中順
つり革に立ち寝の人や目借時(めかりとき) 満江信之
芽柳やゆったり揺るる舫ひ舟 新井康夫
水輪また水輪生まるる春の池 小森葆子
ことさらの思ひ九段の桜かな 鈴木寛
春昼の古都に韻ける刻の鐘 山崎圭子
暮れなづむ空の明るさ春深し 深谷美智子
着る物に迷へる春のバスツアー 鈴木寛
春雷のしじまを破りそれっきり 中島彩
畑仕事四温日和となりにけり 田中順
舟を漕ぐ先々に散る桜かな 杉原洋馬
風波にまた花筏組み変はる 大野朝香
雪洞の川面に映る花堤 満江信之
伝説の美女の名貰ふ桜かな 宮田望月
鴨場跡いま悠々と鴨遊ぶ 小森葆子
断崖に点々と紅落椿 小森葆子
全身の黄に染まりさう花菜畑 本多悠天
2006年1月
<特選> 3句
沖合ひに並ぶタンカー年迎ふ 本多悠天
万歩計腰に七福詣りかな 鈴木寛
年賀状のみの絆や半世紀 山崎圭子
<その他の入選> 27句
雪しづる音に驚く夜更けかな 中島彩
白々と浮かぶ田の道月冴ゆる 大野朝香
病み上がり葛湯をこぬる匙重く 杉原洋馬
初春の日差しのなかの赤子かな 深谷美智子
行く手には銀嶺の恵那恵方道 山崎圭子
水仙の香の潮風に紛れざる 杉原洋馬
おはやうと学童同士息白し 満江信之
天を衝く橡の冬芽の輝けり 鈴木寛
鯔を食ぶ「とどのつまり」のこれはとど みさきたまゑ
折々に雪撥ねの音鄙の宿 小森葆子
襟立つる怒涛の寄する岬鼻に 小森葆子
屋形船もやへる水路冬の雨 野々山満彦 
ポストへの道を小走り雪しまく 小森葆子
甘酒の振舞ひのあり初大師 中島彩
戸を繰れば一面雪の朝かな 深谷美智子
着膨れて連れゐる犬もチョッキ着け 野々山満彦
寒風にミニスカートの闊歩せり 杉原洋馬
ベランダに干し物あまた日脚伸ぶ 深谷美智子
雪降るやジオラマのごと街眠る 大野朝香
下萌えの地をすべり行く鳶の影 深谷美智子
湯上りの嬰にも柚子の香りけり 山崎圭子
万象の物音も無し雪の朝 中島彩
大正の硝子越しなる冬木立 大野朝香
帰り花ならず秀つ枝の結ひみくじ 山崎圭子
ふつふつと麹つぶやく寒造り 小森葆子
街騒の消えゐてなほも雪つのる 小森葆子
富士の絵の新たなりける初湯かな 鈴木寛
2005年11月
<特選−兼題(紅葉)−> 2句
ひとひらが色のるつぼや柿紅葉 中島彩
狛犬の口に貼りつく紅葉かな 杉原洋馬
<特選雑詠> 3句
床屋出で殊に項のそぞろ寒 鈴木寛
硬き音やはらかき音落葉踏む 本多悠天
道迷ふ辻の祠の神も留守 山崎圭子
<その他の入選(雑詠・兼題)> 27句
紅葉濃し箱根路まこと九十九折 小森葆子
常緑の一樹を覆ふ蔦紅葉 本多悠天
トンネルを出づる真向ひ紅葉山 大野朝香
紅葉散るげに万華鏡のぞくごと 中島彩
天蓋のごとき濃紅葉道祖神 大野朝香
木の葉舞ふ紙飛行機のさながらに 大野朝香
この辺り火薬庫の跡紅葉濃し 山崎圭子
女坂とれば濃紅葉薄紅葉 山崎圭子
行くほどに飛騨路の紅葉濃くなりぬ 深谷美智子
奥入瀬の紅葉かつ散りかつ流る 鈴木寛
日溜りに吹き溜まりゐる紅葉かな 深谷美智子
水底に或るは水面に散紅葉 小森葆子  
風止めど落葉時雨のきりもなし 小森葆子
髪結はれゐるも眠たげ七五三 本多悠天
秋冷や蛇口の水のほの温し 杉原洋馬
落葉掃く箒の跡にまた落葉 中島彩
葉の陰に大きな林檎見つけたり 大野朝香
ヱノコロの枯穂の向きの気ままかな 杉原洋馬
唄にある天城隧道冬に入る 宮田望月
磴の萩掻き分けて入る寺の門 新井康夫
孤高なる大山桜もみづれる 宮田望月
七滝の一つ一つに涼新た 宮田望月
乗客にリュックの目立つ秋日和 本多悠天
かじりたる跡見入りつつ林檎食ぶ 大野朝香
凩やひしめきあへるビルの谷 鈴木寛
海上に鳶の高舞ふ秋日和 新井康夫
平伏のさま城跡の朴落葉 山崎圭子
2005年9月
<特選−兼題(虫)−> 3句
モールスの信号交はすごとき虫 鈴木寛
がちゃがちゃの息継ぎの間のなかりけり 山崎圭子
虫すだく夢の中とも現(うつつ)とも 中島彩
<特選−雑詠−> 3句
転げ出しいもむしレタスより青く みさきたまえ
甲虫力み返って転げけり 小森葆子
転げんと満を持すなる芋の露 小森葆子
<その他の入選(雑詠・兼題)> 15句
虫の声すれど姿をついぞ見ず 新井康夫
鈴虫の鉄扉のごとき翅模様 杉原洋馬
近づけば低くぞなりぬ虫の声 小森葆子
虫すだく頃とはなれり我が家路 杉原洋馬
何拍子ともなく叩く鉦叩 山崎圭子
虫すだく闇への一歩踏み出せず 大野朝香
鈴虫の昼鳴く声の頼りなげ 新井康夫
薪の中より飛び出すはちちろかな 鈴木寛
台風裡土間のどこかにちちろ鳴く 小森葆子
俯瞰する我はガリバー蟻の穴 みさきたまえ
一呼吸置きて響けり遠花火 杉原洋馬
外に出よと呼ぶ声のする良夜かな 中島彩  
薬草園葭簀の下は何植うる 本多悠天
遮断機が跳ねてとんぼの飛びたてり 大野朝香
別荘の庭覗きもし避暑散歩 宮田望月
2005年7月
<特選−兼題(蝉)−> 3句
樹下一歩はたと止みたる蝉時雨 小森葆子
お社を揺るがすほどに蝉時雨 中島彩
プロローグエピローグあり蝉の鳴く 山崎圭子
<特選−雑詠−> 2句
遠眼鏡浮巣の親と目の合ひぬ 山崎圭子
六畳を隅から隅へ昼寝の子 小森葆子
<その他の入選(雑詠・兼題)> 17句
蝉翔ちぬチェッの一声置き去りに 山崎圭子
熊蝉に眠り破らる昼下がり 新井康夫
落ち蝉のなほつややかな眼(まなこ)かな 小森葆子
こんなにも固き土にも蝉の穴 大野朝香
読み了へし耳に突然蝉時雨 野村親信
覚めやらぬ午睡の耳に蝉の声 大野朝香
ヴェランダの柱にもあり蝉の殻 新井康夫
夕立のたたき出したる陽の匂ひ 鈴木寛
手を替へて西瓜持ちあふ二人づれ 本多悠天
陽のにほひ濃きもぎたてのトマトかな 中島彩
朝顔や何か良きことある予感 中島彩
蓮の葉をこぼれ蓮葉へ水の玉 杉原洋馬
夕立(ゆだち)来る土のにほひのまづ立ちぬ 宮田望月
梅雨晴れ間雀の遊ぶにはたづみ 鈴木寛
根こそぎに根こそぎにせん草を取る 野村親信
寝てみたや白睡蓮の花畳 本多悠天
やはらかなうちはの風に嬰(やや)眠る 大野朝香
2005年5月
<特選−兼題(鯉幟)−> 2句
村十戸幟の紋は武田菱 小森葆子
発電の風車の郷の鯉幟 山崎圭子
<特選雑詠> 3句
アメンボの脚先ごとの水ゑくぼ 杉原洋馬
鳴き止むや急転直下雲雀落つ 本多悠天
二の腕の若さ眩しき立夏かな 中島 彩
<その他の入選(雑詠・兼題)> 14句
富士を背に意気揚々と鯉のぼり 中島 彩
鯉幟いさみて綱を引っ張れり 杉原洋馬
夥し河を渡せる鯉幟 新井康夫
雨に濡れ支柱に絡む鯉幟 新井康夫
その影の水田に泳ぐ鯉のぼり 小森葆子
鯉幟利根の風受け勢ひけり 本多悠天
花蜂の両手に丸き花粉玉 大野朝香
熊ん蜂まるまり花にもぐり込む 小森葆子
春昼や遅れ気味なる花時計 本多悠天
早々と玉解く芭蕉芭蕉庵 小森葆子
チェンソーの遠くに響く木の芽風 宮田望月
植ゑにけり産毛の光る胡瓜苗 西浦瑞恵
赤門をくぐる銀杏の芽吹くころ 本多悠天
毛むくじゃの虞美人草の蕾垂る 大野朝香
2005年3月
<特選−雑詠−> 2句
春暁やなほ漁火の五つ六つ 中島 彩
大の字に寝て空の底げんげ畑 大野朝香
<特選兼題(花)句> 2句
靖国の献木なべて桜かな 本多悠天
対岸は花の緞帳さながらに 鈴木 寛
<その他の入選雑詠・兼題)> 10句
芥子菜のぴりりと辛き余寒かな 杉原洋馬
寝ころべば花の棺ぞげんげ畑 大野朝香
草青む鳩葬りしあたりかな 鈴木 寛
音軽し剪定の枝の細ければ 鈴木 寛
ポンプ井戸ある佃路地日脚伸ぶ 本多悠天
半眼に在(ま)せる大仏花の昼 本多悠天
人少な受験期過ぎし図書館は 小森葆子
やはらかな富士の稜線春霞 中島 彩
砂浜に子等の靴脱ぐ春隣 中島 彩
とりよせて異国の花の種を蒔く 西浦瑞恵
2005年1月
1月選者吟
はこべらは蕾を持てり七日粥 平田冬か
真新(まさら)なる的の並べる弓始 平田冬か
業平の墓へ矢印梅探る 平田冬か
<特選> 5句
オリオンのさやか天球統ぶるかに 杉原洋馬
埋火のごと家の灯のほつほつと 大野朝香
幾重にも絵馬の掛けられ受験どき 小森葆子
離れ住む子も数ふべし除夜の鐘 小森葆子
浮き沈む鳰幾たびも数へけり 小森葆子
<その他の入選> 25句
獅子舞の口にお祝儀噛ませけり 本多悠天
屠蘇祝してより常の酒を酌む 鈴木寛
うち混じる赤き花びら落葉塚 杉原洋馬
蝋梅にまづは朝日の差しにけり 杉原洋馬
潜りたる鳰の行方に目を凝らす 鈴木寛
ことのほか鈴の音清し初神楽 大野朝香
友の忌に折りしも寒の雨あがる みさきたまゑ
握らなば蝋梅の花壊れさう 大野朝香
鴎舞ひ風の吹きしく冬の海 新井康夫
帆柱の林の入り江小晦日 小森葆子
悴(かじか)みて賽銭落とす厄男 本多悠天
その蕾和菓子のごとき椿かな 宮田望月
蜜を吸ふ鳥に揺れ揺る椿かな 中島 彩
赤く錆ぶ鉄路に沿へる枯薄 新井康夫
覗き込む顔のほころぶ福寿草 新井康夫
子等のごと我も踏むなる霜柱 西浦瑞恵
餅花の出迎へうれし鄙の宿 西浦瑞恵
ぼた餅のやうな花咲くこの椿 宮田望月
湯気の立つ饅頭を買ふ雪催 西浦瑞恵
冬ぬくし浜に貝がら拾ひけり 中島 彩
読書の目窓へ向けたり日脚のぶ 中島 彩
稜線の厳しき富士や寒に入る 中島 彩
露天湯へ凍て道登らねばならず 西浦瑞恵
母の爪切りつつ日向ぼこりかな みさきたまゑ
2004年11月
<特選> 5句
この音を聴きたく落葉踏みにけり 中島 彩
小春日の大道芸に人だかり 中島 彩
味噌おでん八丁味噌に如くはなし 小森葆子
ふり向けば待ち人ならで朴落葉 鈴木 寛
熊手負ふ己が背丈に余れるを 小森葆子
<その他の入選> 24句
雨風(あめかぜ)の最中(さなか)なれども虫の声 杉原洋馬
竿探るかに朝顔の蔓揺るゝ 杉原洋馬
日の向きに止まり直せる赤蜻蛉 杉原洋馬
金箔のごときらめきて銀杏降る 大野朝香
あざあざし雨に濡れたる石蕗の花 大野朝香
指揮棒に息あはすかに第九聴く 大野朝香
吊し柿皺のいよいよ深まりぬ 本多悠天
穂すすきの靡くばかりや古戦場 本多悠天
目を細め工夫ら囲む焚き火かな 本多悠天
今年はも我が庭の柚子鈴生りに 新井康夫
先歩く小春の猫や散歩道 新井康夫
水鳥の遊ぶや水の面(みのも)滑るごと 新井康夫
腰までも泥につかりて蓮根掘る 小森葆子
神の庭ふくら雀の日溜りに 小森葆子
ラガー等の太き首より湯気の立つ 野村親信
見学子溢る議事堂銀杏散る 野村親信
匙を以て啜りたりける熟柿かな 西浦瑞恵
秋深し各駅停車のひとり旅 中島 彩
柿熟れて空の青さの極まれり 中島 彩
大冬木見上ぐる背筋伸びにけり 中島 彩
登校の子らの足元落葉駈く 森 美鎮子
雑用をひとまづ置きて葛湯溶く 森 美鎮子
鳶の輪の下に小春の一岬 森 美鎮子
斧かざす気配のあらで枯蟷螂 鈴木 寛
2004年9月
<特選> 4句
馬房には出自詳しく馬肥ゆる 本多悠天
今し鳴き加はるもあり虫しぐれ 杉原洋
ペダル踏む早稲の香りの風を切り 小森葆子
夕顔の開きし襞(ひだ)のほの青く 杉原洋
<その他の入選> 11句
にがうりはワニの背中にさも似たり 西浦瑞恵
高きより萩のしだるる切通し 新井康夫
りりるりり ちちるちちりと 虫の声 西浦瑞恵
秋雨に舟の釣り人自若なり 中島綾子
初掘の甘藷なかなか子だくさん 中島綾子
焼き網をはみ出してゐる秋刀魚かな 西浦瑞恵
千年屋夏炉の煙部屋を這ふ 小森葆子
草刈りしばかりの土手に彼岸花 新井康夫
茶畑に続く黄金の稲田かな 中島綾子
鳥よけの網を被れる峡の稲架 本多悠天
濡れそぼつ萩の向かうに茶屋灯る 大野朝子
2004年7月
<特選> 3句
・我が家族日に三升の麦茶かな みさきたまゑ
・三の丸本丸跡も万緑裡 小森葆子
・脇道も朝顔市の控へ置く 小森葆子
<その他の入選> 10句
・水撒きのしぶきに小さき虹生まる 杉原洋
・黄ばみゐてなほ梔子の匂ひけり 杉原洋
・ツェー音(c音)の低く響くは牛蛙 大野朝子
・くま蝉の大気裂くかに鳴き出せり 大野朝子
・遠雷に上目遣ひの散歩犬 本多悠天
・鉢かばひ朝顔市を横歩き 小森葆子
・道いよよ険とはなりぬ花さびた 都築美鎮子
・画布真白いざ向日葵を描かなん 野村親信
・涼風の頬を撫でゆく露天風呂 中島綾子
・タンカーの行く手にかかる虹の橋 中島綾子
2004年5月
<特選> 6句
山門の内なる学舎みどり立つ 小森葆子
薔薇の名はリオサンバなり揺れやまず 本多悠天
乙女の手機械の如く茶を摘める 本多悠天
海棠や木曾谷の雨降り止まず 野村親信
ゴールまで泳ぎきったる息荒し 本多悠天
紫陽花に母の面影一周忌 永井寛
<その他の入選> 5句
・紅白の薔薇に薔薇戦争のこと 新井康夫
・母の日のアロマオイルのプレゼント みさきたまゑ
・沼の奥低く響くはひき蛙 小森葆子
・茄子苗の茎よく見れば茄子の色 西浦瑞恵
・見はるかす田の彼方にも鯉幟 小森葆子